凛さんからのリクエストです。
長編になるかもしれないです。

ーーーーーー




私、平手友梨奈は影の薄い人間だ。
幸も不幸もないただの凡人。
いつも決まった時間に目を覚まし、パジャマを脱ぎ制服に身を包む。そして眼鏡をかける。
高校は東京だったので親の元から手を離れ、今は仕送りをしてもらいながら一人暮らしをしている。
朝ご飯を用意して頂きますと手を合わせて朝食を取るのが毎日の日課。
黙々と朝食を食べる。
食べ終わった食器の後片付けをし、お弁当をスクールバッグに入れてマフラーをし家を出て学校へと歩き出す。
カバンから一冊の本を出し、読みながら歩いていると後方から「あのー」と呼ばれて小説から目を離して振り返った。

「鍵落としたよ」
「...ありがとうございます」

相手の顔も見ずに鍵を受け取り、頭を下げるとまた小説へと視線を戻して歩き出す。
少しして校門に着くと読んでいた小説をカバンの中に入れて一年の下駄箱に向かう。
自分の下駄箱を開けて上履きに履き替えると教室へと歩く。
窓際の最後尾の机が私の席。
カバンから教科書などを取り出し、机の中に入れてチャイムの音が鳴るまで小説を読んでいた。
やがてチャイムの音が鳴ると小説をカバンにしまい、担任の先生が教室に入って来て点呼をし始めた。


午前中の授業をそつなくこなして、お昼休憩になると私はお弁当を持って屋上に続く階段を登った。
重厚な扉を開けるといい天気で気持ちが良かった。
日陰に座ってお弁当を食べようとした時だった。

「あ、今日の子」
「今日の子?」

私を見て呟く人を見上げる。
右胸に着いている学校の刺繍の色が赤だ。
3年生だ。

「覚えてる?」
「え...その...」
「今日鍵拾ったのが私」
「...あ...どうもありがとうございました」
「一緒にご飯食べてもいい?」
「いいねー。食べよう食べよう」

私を挟んでお弁当を食べようとしている二人に戸惑い何も言えずに卵焼きを食べた。

「あ、名前聞いて無かったね」
「...平手友梨奈です...」
「友梨奈ちゃんかー。可愛い名前。私は渡邉理佐、でこっちが志田愛佳」
「よろしくねー、友梨奈ちゃん」
「...よろしくお願いします」

3年生に挟まれてるこの状況にドキドキしながらお弁当を早く食べて戻ろうと思い、黙々とお弁当を食べているとじーっと二人が見つめてきているのに気付き、固まった。

「平手友梨奈...うーん、てち!決めた。私これからてちって呼ぶ。私の事はぴっぴでいいからね」
「じゃあ私は友梨奈って呼ぶ。私の事は理佐でいいよ」
「そんな事言えません...」

私は狼狽えながら首を左右に振った。

「ぴっぴって呼んでみて?」
「...どうしても呼ばなくちゃだめですか...?」
「うん」
「...ぴっぴ、さん...」
「さんいらないー」
「っ...ぴっぴ...」
「てちー!」

嬉しそうに笑って志田先輩が抱きついてきた事に驚き身体を跳ねさせた。

「友梨奈、私は?」
「...理佐...」
「よくできました」

渡邉先輩も頭を撫でてくれた。

「友梨奈はいつも一人でお弁当食べてるの?」
「...一人の方が気楽なので...」

こくんと頷いてお弁当を見つめる。

「じゃあこれから一緒にご飯食べよっか」
「理佐いいねそれ」
「え...でも...先輩達の邪魔になりませんか...?」
「友梨奈、邪魔だったら誘ってないよ」

にっこり微笑む渡邉先輩が眩しかった。
というか何故先輩達は私を構ってくれるのか分からなかった。
こんな地味な私に興味を持つなんて。
変わった先輩達もいるものだ。

「友梨奈は友達とかいる?」

ご飯を食べながら聞かれて「...いません」と俯きながら答えた。

「てちは地味だもんなー」
「愛佳」
「あ、ごめん」
「じゃあさ、友梨奈私と友達になろう?」
「え...?」
「ダメかな」
「...私でいいんですか...?」
「うん。友梨奈がいい」

ふんわり微笑み、渡邉先輩が綺麗な手を差し出してきた。
私はおずおずとその手を握った。

「友梨奈これからよろしく」
「...よろしくお願いします」

渡邉先輩を見つめて、だけど恥ずかしくてすぐに目を伏せて手を離した。

「私もよろしくー」
「...よろしくお願いします」

志田先輩とも握手をして手を離した。
と、チャイムの音が響き渡り休憩時間が終わってしまった。
お弁当を片付けると、みんな一斉に立ち上がった。

「じゃあね、友梨奈」
「てちまたねー」

先輩達に頭を下げて自分の教室へと戻った。


午後の授業を終えて放課後、私は帰る支度をしていた。そんな中教室の扉がガラッと開いた。

「友梨奈」

渡邉先輩がカバンを肩に掛けて立っていた。

「...理佐先輩...」
「一緒に帰ろう?」
「...はい」

カバンを持って渡邉先輩に近付き、教室から出た。
下駄箱を開けて靴に履き替えると渡邉先輩が手を差し出してきた。
ドキドキしながら手を握る。

「友梨奈のお家どこ?」

並んで歩きながら渡邉先輩が口を開いた。

「洋燈って喫茶店の近くのマンションです」
「うそ?!私の家から近い」
「そうなんですね」
「家族と住んでるの?」
「いえ、一人暮らしです」
「私も一人暮らしだよ」
「...同じですね」

俯きながら答えた。
特に会話をする訳でも無く、歩いていると渡邉先輩が私を見つめてきた。

「友梨奈、眼鏡外した方がもっと可愛いかも」
「え...そんな事ない、」
「コンタクトにしてみたら?ていうか私が見たい」
「...はい」

何故か頷いてしまった。
コンタクトをした時の渡邉先輩の反応が見たくなって。
その後また無言になったが、どこか渡邉先輩は楽しそうだった。

「...理佐先輩私の家あそこです」
「え、本当に近い。私はこっち」

5分くらいの距離の家に私は驚く。

「こんなに近かったんだね」
「そうですね」

二人で笑いあって手を離した。

「友梨奈の家何号室?」
「一階の102号室です」
「じゃあ迎えに行くよ。明日」
「いいんですか?」
「うん。あ、あと携帯教えて?」
「はい」

携帯の番号を教えてIDも交換した。
友達登録をお互いにして先輩は私のアイコンに首を傾げる。

「友梨奈のアイコンってなに?」
「カワウソです」
「可愛いね」
「...理佐先輩のアイコンも可愛いですよ」
「ありがと」
「...じゃあ、帰りますね」
「友梨奈また明日ね!」

先輩に頭を下げて自宅へと帰った。
家に着くと寝室にマフラーとカバンを下ろし、制服を脱いで部屋着に着替えた。
うどんでも作ろうかな。
私はキッチンに立ってうどんを冷凍庫から出し、鍋にお水を入れて沸くまで携帯を取りに寝室に向かい、バッグから携帯を取り出した。
そして座席に座り、携帯を見た。
メッセージが一件。
お母さんからかなと暗証番号を打ってメッセージを見ると渡邉先輩からだった。
(友梨奈、今日は楽しかったよ。明日迎えに行くから寝坊しないように!)
思わずニヤけてしまった。
(私も楽しかったです。ありがとうございました。寝坊しないように気を付けます)
と、メッセージを送り携帯をテーブルの上に置いてキッチンへと戻った。

出来たうどんをいただきますと呟いて食べ始める。

しばらくしてから食べ終わり、後片付けをしてお弁当のおかずを作った後お風呂に入った。
渡邉先輩の事が頭から離れないでいた。
湯船に浸かりながら、ずっと考えていた。
面白半分かなぁ。
膝を抱えてうーんと唸る。
でも考えてたってしょうがない。
お風呂から上がって身体を拭き、ショーツに脚を通しパジャマを着た。
髪を乾かして終わるとテーブルの上に置きっ放しの携帯を持って寝室に向かった。
ベッドに座って携帯を見るとメッセージがまたあった。
見てみると、
(友梨奈、おやすみ)
嬉しい気持ちを抱えながら返信を打った。
そして眠くなるまで小説を読んだ。


ーーーーーー
朝目覚ましが鳴り、それを止めて起き上がると身支度を整える。
キッチンに立つとトースターに食パンを入れてホットミルクを作り、テーブルに置く。チンッとなったトーストを皿に乗せていただきますと呟いて食べ始める。
黙々と食べてホットミルクを飲むが、温め過ぎてあっち、と思わず声が出た。
舌を火傷してヒリヒリする。
ふうふうと冷ましながら飲み干して後片付けをする。
バッグの中にお弁当を入れてマフラーを首に掛け、出ようとした時だった。
インターホンが鳴り、鍵を開けると渡邉先輩が笑顔で立っていた。

「おはよう、友梨奈」
「...おはようございます」
「学校行こう?」
「はい」

戸締まりをして家から出ると渡邉先輩がまた手を差し出してきた。
その手を繋いで学校へと向かう。

「友梨奈、昨日寝れた?」
「はい、小説読んでいたらいつの間にか寝ちゃってました」

軽くだけど会話しながら歩いているともう学校が見えてきてしまった。

「友梨奈ともっと話したかったのになー」
「...そうですね」

私は内心残念そうに思っていたけど、渡邉先輩も同じ気持ちだったのかと嬉しくなった。
校門を通り、玄関口で手を離した。

「友梨奈、お昼ね」
「はい」

上履きに履き替えると教室に向かった。



ーーーーーー