理佐の家着くと駐車場に入り、柊さんが荷物を運ぶのを手伝ってくれた。
二人して柊さんにお礼を言うと、
「理佐ちゃん、友梨奈の事これからよろしく」
「はい」
理佐は微笑んで頷いた。
柊さんと別れ、玄関が閉まると箪笥に荷物を持って理佐が仕分け出していた。
「友梨奈、黒い服多い」
「黒好きだから」
「みんなフード付きだし」
「そりゃそうだよ。吸血鬼なんだもん」
「あーそっか」
理佐は納得して片付ける。
「良かった。使ってない場所があって」
独り言を呟きキャリーケースの中も片付けてクローゼットの中にしまい込んだ。
「はい。終わりましたー」
「ありがとう...理佐」
「お礼なんていいの」
とベッドに座っていた私の左に座って肩に頭を乗せてきた。
「友梨奈...私を守ってくれてありがとう...」
「...私は理佐を守れたのかな」
「守ってくれたから、怪我してるんでしょ」
「...うん。そうだね」
そのあと長い沈黙があった。
理佐はきっと自分を責めている。
自分が助かったとしても。
なんとなくそんな気がした。
「ねえ理佐」
「...ん...?」
「今日からよろしくね」
理佐は頭を上げて今にも泣き出しそうだ。
「私の方こそ、よろしく」
そう呟いて涙を堪えきれずに理佐は泣いた。
左手で理佐を抱きしめる。
「友梨奈...死んじゃうかもしれないって、怖かった...っ」
「...理佐」
私が思っている以上に理佐は弱い事を知った。
それを周りには見せない。
だけど私には見せてくれた。
それだけ信頼してくれているという事なんだろう。
「理佐...もう泣かないで...?」
「っ...ん...」
こくこくと頷くがなかなか泣き止んでくれない。
「私は理佐とずっといるよ」
「っ...友梨奈...私も...っ」
「だからもう泣かないで?」
「っ...ん...っ」
宥める様に理佐の後頭部を引き寄せるとゆっくり唇を重ねた。
「...理佐、大好きだよ」
「...友梨奈」
「私は理佐が苦しい思いをしていると辛い」
「...」
「痛い思いをしているのも嫌だ」
「友梨奈...」
「だからあんまり自分を責めないで...?」
「っ...」
理佐には笑っていて欲しい。
あの綺麗な笑みをまた見たい。
「...ほら...泣かないの」
「だって...っ」
優しく微笑んで見つめた。
その表情に理佐は涙を拭い、綺麗な笑みを浮かべた。
それだけで私は幸せになれる。
この人の笑顔を守りたい...愛おしいという感情をまた理佐から教えてもらった。
「理佐...」
「ん...友梨奈...」
おでこをつけ合い、二人ではにかんだ。
ーーーーーー
時計を見るとお昼過ぎでもう入っちゃおっかと言う理佐に頷いて、そのあとなんとか理佐に手伝ってもらいお風呂に入った。
お風呂から上がると自分でタオルを取って拭こうとすると理佐が「もっと私を頼って」と呟くのでお願いした。
恥ずかしいという概念はもうなくなっていた。
それから寝間着を着せてもらい、右腕を三角巾で吊るされた。
「理佐のお弁当食べたい」
「うんいいよ」
理佐も寝間着姿になって、私の鞄と理佐の鞄からお弁当を取り出した。
ぐちゃぐちゃになってなきゃ良いけど、と言いながら意を決して二人のお弁当箱を開けた。
「っ...良かった〜」
理佐は安堵して、お弁当箱を並べた。
「友梨奈、座って?」
「ん...」
腰が痛く無いようにベッドとテーブルの間に私が座るとクッションを腰に置いてくれた。
ありがとうと呟いて理佐を見た。
「...あ、友梨奈右利きだから食べれないよね」
「...そうだった」
はたと気付いてどうしようか迷っていると理佐がフォークを持って来てくれた。
「これでどうかな」
「ありがとう理佐」
フォークを受け取るとハンバーグを切ろうとするがなかなか切れない。
苦戦している私に理佐は「私が食べさせてあげる」と私からフォークを取り、一口大に切ってくれたハンバーグを「あーん」と言いながら口元に近付けた。
「いただきます...」
パクッと食べるともぐもぐと口を動かした。
美味しいハンバーグに自然と笑みが溢れる。
「友梨奈はいっつも美味しそうに食べてくれるね」
「ん...だって美味しいんだもん」
「ありがとう...友梨奈」
「お礼を言うのは私なの」
ふふっと微笑んで飲み込んだ。
まるで雛鳥の様に口を開けた私に理佐は笑ってご飯を食べさせてくれた。
しばらくしてから食べ終わると、今度は理佐がご飯を食べ始めるのを見つめた。
「理佐、美味しい?」
「うん...我ながら」
にっこり笑って理佐も美味しそうに食べている。
理佐はやっぱり笑っている方がいい。
こっちまで嬉しくなる。
「...ん...?」
あまりにも見つめている私に気付いて小首を傾げた。
ううん、なんにもないよと呟いて微笑むと、また理佐はぱくぱくと食べ始めた。そして食べ終わるとキッチンに二つのお弁当箱を持って洗いに向かった。
「理佐、ジュースもらうね」
「いいよー」
と呟いた理佐に、冷蔵庫からサイダーを取って席に戻った。
両足に挟んで左手で開けると、開けれた!と喜んだ。
食器等を洗い終わった理佐がジュースを持って戻ってきた。
「何してるの?」
「理佐、私にも出来ることあった」
「なに?」
「ジュースのフタ開けること!」
「...ふふっ。じゃあ私のも開けてくれる?」
「いいよ!待ってね...んーっ!」
力を使い、プシュッと開いた音に嬉しそうに微笑んで理佐を見つめた。
「ふふっ...ありがとう友梨奈」
「はいね」
理佐はクスクス笑ってジュースを受け取った。
「なんで笑うの?」
「だって可愛いから」
「可愛い?どこが?」
「全部」
「えー...なにそれ」
笑っていると理佐もつられて笑っていた。
こんな幸せな時間が一生続けば良いのに。
なんて思っていた。
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