結局先生は戻って来ずに学校が終わると、私とねるは下駄箱に向かいスニーカーに履き替えた。
汚された上履きは邪魔だから鞄に詰め込んだ。
それから日の当たらない場所を探して座った。
「あ、理佐」
「...」
部活仲間とグラウンドにやってきた理佐は終始にこにこと笑って談笑している。
私達には気付いてはいないようだ。
なんか...妬ける。
また知らない感情が胸をチクチクさせる。
妬けるって、なに...?
膝に顎を乗せて一人唸っているとねるがそれに気付く。
「てち、どがんしたとー?」
「...何にもない...」
フードで理佐の事をあまり見ない様にした。
「あ、次理佐走るよっ」
「...」
目深に被ったフードを少し上げて、理佐を見た。
理佐は「よーい、スタート!」と言われると颯爽と風を切り走って行く。
その姿は初めて見るもので私の視線を釘付けにした。
ゴールをして息を切らしている理佐にマネージャーらしき人がドリンクを手渡して、理佐が笑顔でその子の頭をポンポンと叩いた。
またも妬ける。
「...帰る」
「え?見て行かないの?」
「ちょっと具合悪い」
「そっか。じゃあ一緒に帰ろう?」
立ち上がって鞄を持つとまだ理佐は楽しげに笑っていた。
それを見たくなくて視線を外すと校門に向かってねると歩き出す。
部活の時の理佐は好きじゃない。
そんな思いを抱えながらまた悶々とした気持ちになって溜め息をこぼした。
家路に着くとねるが「またねー」と手を振ったので少し笑みを浮かべて手を振り返した。
カランカランと音を立てて喫茶店の扉を開けると柊さんが目を丸くした。
「...なに、オバケでも見たような顔して」
「いや、一人で帰って来たから」
「帰っちゃまずいですか」
「...何かあったのかい?」
不機嫌そうな私を見て柊さんは穏やかに話す。
それでも私の心は晴れなくて、それ以上は何も言う気にならなくて店の奥に入って階段を上った。
自室に入って鞄を無造作に置き、ベッドに横たわった。
「...部活...見なきゃ良かった...」
はーっと溜め息をこぼし、カワウソの人形を抱きしめ目を瞑った。
いつの間にか私は眠っていたらしく、ドアのノック音で目が覚める。
柊さんだろうと思い、「はーい...」と返事をすると息を切らした理佐が中に入ってきた。
「友梨奈っ...良かった〜」
「え...どうして...」
ベッドから飛び起き、回らない頭で必死に考えるが、答えは出てこない。
「教室に行ったら居なくて、ねるにメッセ送ったら家に帰ったって聞いて」
「...うん...」
「もう友梨奈...勝手に帰っちゃだめでしょ」
理佐だって楽しそうにしてたじゃん。
他の人の頭ぽんぽんしたりして。
思いを巡らせるが頑なに口をつぐんだ。
「...友梨奈...どうしたの...?」
「何にもない」
「...なんにも無いならどうして泣きそうなの?」
「っ...」
じんわりと潤んでくる目に、頭上げて涙を堪える。
泣くな泣くなと暗示をかけるように心の中で唱える。
「友梨奈、答えて」
「っ...だ...」
「...ん...?」
「っ、やだ...っ」
とうとう涙は堪えきれず、ぽたぽたと溢れてしまった。
肩を震わせて右目を拭う。
眼帯のせいで左目は拭えずガーゼが濡れる。
「友梨奈...泣かないで」
「ひっく...んぅ...っ」
「友梨奈って」
「り、理佐が、だって...っ」
「私が?」
「こっち...っ、全然見てくれな、いし、楽しそうだったしっ、頭...っ」
「頭...?」
「ぽんぽんしたりして...っ、見てるのが嫌で...っ」
涙を必死に拭うがなかなか止まらない。
すると理佐は私を膝に乗せた。
「友梨奈...そんなに泣くと目が腫れるよ」
「っ、ひっく...っ」
「...あーもう!」
焦れったくなった理佐は私を強く抱きしめた。
「友梨奈...そういう感情、何か分かる?」
「...っ」
首を横に振ると耳元で、
「そういうの焼きもちって言うんだよ」
と、呟いた。
「焼き、もち...?」
「うん」
理佐は満足げに微笑んでいた。
悔しくなって理佐を軽く突き放すが、膝の上に乗っているせいでなかなか離れない。
諦めて理佐の肩に頬を当てた。
私ばっかり一喜一憂してるのばかみたい。
だらんと両手を下ろして鼻をすすった。
涙は自然と止まっていた。
「そっかー。友梨奈焼きもち妬いてくれたんだー」
ぎゅうっと抱きしめてくれたのはいいけど、嬉しそうに呟く理佐にむうっとした。
「もう理佐嫌」
「嫌とか言われると傷付く」
「どうせ私は何にも知らないお子ちゃまですよ」
「拗ねてる〜。可愛い〜」
そんなやり取りをしていると理佐がハッと我に返った。
「友梨奈...今日も家来る?」
「...どうしよっかな」
「あんまり拗ねてるとちゅうするよ?」
「っ...!!」
視線を合わせると唇が重なった。
恥ずかしくて目を伏せる。
そんな私にすら理佐にとっては堪らないみたいで、私を立たせると理佐も立つ。
「マスターに聞こう」
そう呟いて私の手を握り、自分の鞄を持つ。
私も鞄を持って二人で階段を下り、柊さんに近寄った。
「ねえマスター、また友梨奈何日か泊まらせてもいい?」
「いいけど...大丈夫かい?」
「はい、私ひとり暮らしなんで」
「じゃあ友梨奈の事よろしくね」
柊さんはきっと気付いてる。
私に好きな人が出来たことを。
だって理佐の左の首筋に噛んだ跡があるから。
「友梨奈...薬は?」
「もう無い」
「じゃあ持って行きなさい」
引き出しから薬の束を出して私に渡す。
それをポケットに入れて柊さんにお礼を言った。
それから二人でお店を後にして、手を握ったまま理佐の家まで歩いて帰った。
家に着くなり、理佐は私をぎゅうっと抱きしめた。
「ちょ...理佐、ここ玄関...」
「じゃあ早く中に入って」
「うん...」
お邪魔しますと呟いて靴を揃え、鞄を隅に置いた途端、また抱きしめられた。
そしてそのまま絨毯の上に押し倒された。
「...理佐...?」
「しーー」
「ん...!!」
唇が重なったと思ったら理佐の舌が唇の隙間から入ってきた。
なんとか合わせようと私も口を開くと舌が絡んでくる。
...なんか...溶けちゃう...
呼吸が上手く出来ない。
しばらく深い口付けをして最後に舌を甘噛みされて唇が離れると二人の間に銀の糸ができ、プツンと切れた。
乱れた息を整えて理佐を見上げる。
「...っ...は...」
「...ごめん...我慢出来なかった」
「...どうしたの...?」
「私、友梨奈の事で頭いっぱい...」
口端に垂れた唾液を理佐が舐めとる。
それだけでも肩をビクッとさせた。
「友梨奈の舌小さくて可愛い」
「可愛くないよ...」
「...あ、そうだった」
何をするのかと思ったら私の眼帯を外してテーブルに置いた。
「先にお風呂入っちゃおう」
「っ...うん」
「お湯張って来るからなんか飲み物飲んでて」
「はーい」
言われるがまま冷蔵庫に近付いて扉を開けるとサイダーがあったのでそれを手に取り絨毯の上に座った。
...妬けるって、焼きもちの事だったんだ...。
膝を抱えて今日の事を思いながらサイダーのフタを開けて飲む。
「友梨奈ー」
理佐もジュースを片手に持って隣に座った。
「理佐...あのね...」
「ん?」
「頭ぽんぽんしたりするの...私だけにして?」
「っ!!」
「後は我慢するから...」
ジュースをこぼしそうになった理佐を不安そうに見つめてみる。と、いきなり唇を奪われ理佐の口に入っていたジュースを流し込まれ、こぼれないように飲み干した。
「っ、理佐...急過ぎ...けほっ」
「友梨奈が悪いんだよ。あんまり可愛い事言うから」
「...理佐...」
「分かった。友梨奈の嫌がる事はしない」
「ほんと...?」
「うん。約束する」
嬉しくて理佐に抱きつく。理佐は幸せそうに笑って抱きしめてくれた。
しばらくしてお風呂の張りが終わると仲良くお風呂に入りに向かった。
「ねえ、友梨奈...」
一緒に湯船に浸かっていると理佐が名前を呼んだ。
「ん?」
「友梨奈のお父さんとお母さんってどこにいるの?」
「んー...わかんない」
「じゃあいつからマスターと暮らしてたの?」
「んー.....多分6歳の頃だったと思う」
「それまではどうしてたの?」
「...孤児院にいた。...私左目が緑色でしょ?で、髪も金髪で根本は黒だからいつも虐められてた。化け物ーとか。だから私も虐めてた。うるさい!ハゲ!って」
「...そうだったんだ...ハゲって」
「...で、叔父さんがね、お母さんから頼まれたって言って迎えに来てくれたの。で大体の事は叔父さんから教えられた。学校行く時はフードを被ってとか、後眼帯も」
「そっか......友梨奈、おいで」
理佐が腕を広げて呼んだので大人しく腕の中に収まった。
「...理佐は?」
「んー...うちは放任主義だったから。でも仕送りとかしてくれるからひとり暮らしが出来てるんだけどね」
「そうだったんだね...」
「けど私、友梨奈に会えて良かったって思う」
理佐があまりにも優しく微笑むから、私は目を潤ませた。
理佐はそれ以上何も言わずにただ抱き寄せてくれていた。
「友梨奈...ご飯食べる?」
「んー...理佐のおにぎり」
「はーいバブちゃん」
「バブちゃんって...」
ムスッとするとまた唇を奪われた。
お風呂から上がり、身体を拭いてガシガシと髪を拭いていると理佐が「ドライヤーやるよー」と呼びかけたので寝間着に着替え、足の間に座った。
ガーという音の中髪を乾かされうとうととする。
「友梨奈ー寝ちゃだめだよー」
人に髪の毛触られると眠たくなっちゃうんだよね。
なんて思いながら大人しく目を閉じた。
「な.....友梨奈ー...」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれて目が覚めた頃には、理佐が握ってくれたおにぎりがテーブルに置かれていた。
「なんで髪の毛乾かすと寝ちゃうの」
「えー...だって気持ちいいんだもん。理佐、おにぎりありがとう」
ふんわり微笑むと理佐は微笑み返して隣に座った。
「理佐のおにぎり美味しい...」
「お褒めの言葉ありがとう」
ふふっと笑って美味しそうに頬張ると「友梨奈、カワウソみたい」と言われちょっとショックを受けた。
「もう理佐...可愛くない」
「カワウソいや?可愛いのに」
「カワウソ好きだけど、自分がカワウソって言われるといや!」
ふんっと首を横に向けると「友梨奈...」と囁かれて肩をすくめる。
「おにぎり食べてるから!」
「ふふっ」
「可愛い〜」と言われ満更でもなくニヤけそうになる私は理佐に翻弄されてる。間違いなく。
「ごちそうさまでした」
と手を合わせ、ティッシュで手を拭くとじゃあ歯磨きするよーと理佐に立たされて洗面所に連れてこられた。
「これ友梨奈のだからね?」
と昨日使った歯ブラシを見てやっぱり、と思った。
「だと思った。ありがとう理佐」
微笑んで受け取ると歯磨き粉を着け並んで歯を磨いた。
磨き終わると手を握って奥に私を寝かせ、理佐は私に腕枕をして寝そべり、毛布と布団を身体に掛けて電気を消す。
私はぎゅうっと理佐に抱きつくと、理佐も空いた手で抱き寄せてくれた。
「理佐...」
「ん...?」
「おやすみ...」
「おやすみ...友梨奈...」
額に口付けをしてくれて恥ずかしくて理佐の胸に顔を埋めた。
「友梨奈...大胆」
理佐は微笑んで髪に鼻先を埋める。
そうしている内に睡魔に襲われて目を閉じた。
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温もりを手探りで探してうっすらと目を開ける。
理佐が居ない...と思ってキッチンの方に視線を向けると朝から理佐が制服にエプロン姿でご飯を作っていた。
のっそりと起き上がると気付いてないみたいでゆっくりベッドから下りた。そして背後から抱きしめた。
理佐はビックリしたみたいで肩を跳ねさせた。
「っ!!もう友梨奈ー...危ないじゃんー」
「ごめんなさいー」
悪戯っぽく笑って理佐の手元を見つめた。
「目玉焼き...?」
「うん。今日食材買って来なきゃなー」
「荷物持ってあげる」
「本当に?ありがとう〜」
危ないからと言われて離れ、普段通りに顔と歯を磨き今のうちに着替えようと寝間着を脱いで私服に着替えた。
「はーい出来たよー」
目玉焼きとパンが並んでいて、さっそく席に座った。
「いただきます」
二人で手を合わせて食べ始めた。
「友梨奈、美味しそうに食べるね」
「ん...?そう...?」
「うん。嬉しい」
はにかんでいる理佐ににっこり微笑む。
「今日のお弁当も楽しみにしてね」と言われ、
こくんと頷きお礼を言った。
理佐もぱくぱくと食べ終わると、着けていたエプロンを外して皿を水につけたので私も同じ様にした。
「よし!行こう」
「理佐ちょっと待って...っ」
眼帯をして鞄にお弁当を入れて肩に掛けるとスニーカーを履いて家を出た。鍵を閉めた理佐に「ん...」と手を差し出すと嬉しそうに手を握ってきた。
理佐と楽しく談笑しながら学校に向かっているとねるが「おはー!」と駆け寄ってきた。
そして私の手を握った。
理佐は相変わらず怒っているが「帰ったら友梨奈に癒してもらう...」と小さく呟いたのを聞き逃さなかったから恥ずかしくて俯いた。
学校にみんなで着くと玄関先で理佐と手を振りあった。
下駄箱で上履きに履き替え、ねると教室に行くと担任の先生にちょうど会ってそこでねると別れた。
職員室に呼ばれると虐められてた事を聞かれた。
素直に何があったか答え、鞄に入れていた上履きを出して見せたら先生は険しい顔を浮かべた。
「分かった。平手辛かったな」
理解してくれた先生に私の思いを伝えた。
「...まあ虐めてた事も認めていたから退学処分は免れんだろうな。もう大丈夫だからな...だから安心して学校に来いよ?」
ニカッと笑った先生に安堵して微笑みあい頷くともう戻っていいぞーと言われ、頭を下げて職員室を出た。
「てちーどうだった...?」
教室に戻ってきた私を心配そうに見上げるねるに小さく微笑んだ。
「退学処分だって...」
「良かったー...」
「でもこれで良かったのかな...」
「てちっ。同情なんかしちゃだめ!」
「っ...うん...」
「悪い事したのはあっちなんだから」
理佐に被害が無ければ私はどうだっていい。
だって大事な人なんだから。
そう思いながら外を見た。
すると扉が開き、先生が教壇に立って点呼をし始めた。
いつも通りの平凡な朝だった。
お昼休憩になり、理佐の作ってくれたお弁当を抱えてねるといつもの様に屋上に向かった。
重たい扉をねるが開けるとカンカン照りの太陽に肌が焼けるように痛かった。
薬キャリーケースの中だった!
「ねる、友梨奈は...?」
「いるけど...てち...?」
理佐はとっくに二人を待っていてくれてた。
でもこの照り返しは私には耐えられない。
理佐が立ち上がって扉まで迎えに来てくれたけど熱をもち始めた身体が痛くてうずくまった。
「友梨奈...?!」
「り、理佐...っ」
涙目でお弁当を抱えて理佐を見上げた。
頬が焼けただれていた私を理佐は軽く持ち上げ、保健室に走ってくれた。ねるも理佐のお弁当を持ち追いかけて来る。
私はあまりに痛くて泣いてしまう。
保健室に着くと何も言わずにベッドに寝かされ、上履きを脱がされた。
「何、どうしたの?」と理佐が誰かと喋ってる。
「菅井先生、ガーゼとオキシドール、あとテープ!」
「あ、はいっ」
相手は先生だったのか。
理佐は手慣れた手つきで用意した。
「友梨奈...ちょっと我慢してね...」
「...っ、痛いっ」
焼けただれた左頬に消毒液を当てられ堪えきれずに声を上げた。
暴れた私を理佐はねるに身体押さえてて!と叫ぶ。ねるは戸惑いながらも全力で私の身体を押さえた。
「いっ、」
「っ...友梨奈、終わったよ」
ガーゼで焼けただれた皮膚を覆われテープで固定されていた。
理佐が「ねる、もういいよ」と呟くとねるが身体を押さえるのを止めた。
理佐が今日はここで食べよっかと優しく微笑んでくれて私は涙が止まらなかった。
「こうしちゃるばいっ」
ねるがベッド下の金具をクルクル回すと寝そべっていたベッドが背もたれになった。
「...ごめん...みんな...」
「こーら。友梨奈は紫外線アレルギーなんだから仕方ないの」
「...うん...」
「そうだよてち。もう少し私達を頼って?」
嬉しくて涙を流すと理佐が頭をぽんぽんと叩いた。
「って事で菅井先生ーここでご飯食べるねー」
「どうぞー」
と理佐が言うと先生は軽く呟いた。
「友梨奈...食べれる...?」
「...うん...」
ねるが私のお弁当を開けてくれて「はいっ」とお腹に置いてくれた。
今日のお弁当はチキンライスだ。
「理佐...ありがとう...」
「ふふっ。どういたしまして」
はむっとスプーンを使って食べると優しい味がして自然とはにかんだ。
ひとり暮らしが長いから料理上手なのかな?
なんて思いながらゆっくりご飯を食べる。
そんな私を理佐はちらちらと確認しながらご飯を食べ終えた。
私もゆっくりだけど食べ終えると理佐が手を握ってきた。
するとチャイムが鳴りねるが「てちどーする?」と尋ねてきたので遅れて行くと呟いた。
「じゃあ先生に言っとくね」
頼もしい友達だ。
菅井先生もちょっと席外すねと言って保健室を出ていった。
お弁当を片手で片付けながら手を握ったままの理佐に声をかけた。
「理佐...?」
「友梨奈...血飲みな。いまの内に」
「...うん」
理佐は吸いやすいように左の首筋を差し出してきた。
いつ見ても綺麗な肌。
見とれていると吸血発作が現れ始めた。
目を紅くさせると左の首筋に牙を立てて噛み付く。
そしてある程度飲み干すと目と牙は元に戻った。
傷から血が流れているのに気付きぺろっと舐めとる。
その行為に理佐が小さく震えた。
「もう友梨奈...」
「ごめん...でも血が止まってなかったから」
「絆創膏あるよね?」
私から離れた理佐は
絆創膏を探して見つけると私に駆け寄ってきた。
「友梨奈...貼れる?」
「うん」
絆創膏を受け取って剥がすとちょうど傷口が隠れたのを見て安心した。
「じゃあ理佐、私行くね」
「あんまり無理しちゃだめだからね?」
「はーい」
ふふっと二人で微笑みあい、理佐が角度を変えて唇にキスをしてきた。
「んもう...」
「じゃあ放課後ね。ちゃんと待っててね?」
「ん...」
理佐を見送り、私はお弁当を抱えてベッドから下り、上履きを履いた。
教室に戻ると古文の先生が「大丈夫?」と尋ねてきたので「はい」と呟いて席に座りノートと教科書を引き出しから出した。
「てち、大丈夫...?」
「うん...もう大丈夫」
ヒソヒソと呟いて微笑んだ。
それから黒板に書かれていた字をノートに書いていった。
放課後、私はねるに手を振って教室で理佐の部活が終わるまで寝て待っていた。
「なー...友梨奈ー」
「ん...」
完全に夢の中だった。
理佐に起こされて大きく伸びをした。
「退屈だった?」
「ううん...」
フードの上から頭を撫でられ気持ち良くて頭を擦り付けた。
それを理佐がクスクス笑った。
ふと外を見つめると夕暮れに近かった。
「理佐...買い物行こう?」
「うん...大丈夫?」
理佐は心配そうに見つめている。
それを払拭させるように微笑んで頷いた。
買い物を無事終えて、帰宅すると理佐は手際良く今日はこれ、明日はこれ。と袋から材料を出して冷蔵庫に入れていった。
「私も手伝う」
「そう?嬉しいな〜」
今日はハンバーグの日らしい。
ある程度理佐がやって、捏ねて円形にしたら真ん中を凹ませてフライパンで焼き始めた。
私の作ったハンバーグは形がいびつなのが恥ずかしい。残りはお弁当に入れてくれるみたい。
後は水を入れて蒸し焼きにするらしい。
手を洗って理佐に抱きつく。
「理佐...いつもありがとう」
「私がしたいからやってるだけだよ」
お礼の意味も込めて頬に口付けた。
「あ、そうだ」
救急箱を持って私の側に寄った。
「友梨奈...座って」
目の前をぽんぽんと叩いたので大人しく座った。
「痛いのやだ」
そう呟くと、「そういう子は後でちゅう地獄」と言われ顔を赤くした。
ぺりぺり...とゆっくりテープを外して焼けただれてるであろう頬が剥き出しになった。
その跡をまじまじと見つめている理佐。
「どう...?」
「処置が早かったのかな。あんまり酷くなってない。良かった〜」
「半分吸血鬼だからじゃない?」
「え?そうなの?」
「うん...お母さんは人間だから」
「へ〜」
取り敢えず理佐は痒くならない様にと塗り薬を塗ってくれた。
「搔いちゃダメだからね」
「はーい」
救急箱をしまってガーゼを捨てる理佐を見つめながら眼帯を外した。
そうこうしてる内にハンバーグが出来上がって皿に盛り付ける理佐。
私はご飯を盛り付け、後オニオンスープも耐熱容器に入れて置く。
理佐が隣に座ると「いただきます」と呟いてから食べ始めた。
「ん〜美味しい〜」
「ほんと...友梨奈の作ったハンバーグ美味しい」
「え〜...形いびつだし」
「ほんとだよ」
「...ありがとう」
恥ずかしくてもそもそとご飯を食べた。
ーーーーーー