「ねえ、しゅうさん...

どうしても学校に行かなきゃダメ...?」

左目を眼帯で覆っているのがむず痒くて眼帯の下を掻きながら、正面でコーヒーを入れてる叔父に私、平手友梨奈は気だるそうに呟いた。
そんな私に柊さんはクスクスと笑いながら私の前にコーヒーと食パンを並べた。

「友梨奈、昨日からそれ言ってるな」
「言うよそりゃ...学校なんて行きたくない。私服で行けるのは良いけど...」
「これはお前のお母さんとの約束事なんだから、」
「分かってるっ!...会った事ないけど...しゅうさんから耳にタコが出来るほど聞いてるから...」

パンを頬張りながら眉間に皺を寄せて言葉を紡いだ。
私には母と父が居ない。
その代わりにこの叔父さん、柊さんが私の面倒を見てくれている。
甘いコーヒーとパンを食べ終えると食器を台の上に乗せて、鞄を持った時だった。

「友梨奈、吸血発作の薬は持ったかい?」
「...うん、ありがとう。ちゃんと持ったよ」
「そうか。今日は友梨奈の好きなお弁当にしておいたよ。それで頑張れ」

柊さんは穏やかに微笑んで頷いた。
私もつられるように微笑んで「行ってきます」と喫茶店を出た。

うわーー太陽が痛い。
自分が吸血鬼だと言う事を否応なしに思い知らされる。
フードを被っていても肌がチクチクとする。
「やだなー...ちゃんと薬塗ったのに」
ぼそっと呟いて、早足で学校までの道のりを歩いた。

一方その頃、渡邉理佐は朝から勝手に作られていたファンクラブの女子高生達に囲まれていた。
参ったなー...。全然進めないじゃん...。

「私そろそろ中入りたいんだけどー...」
「理佐先輩!鞄持ちましょうか?!」
「いや、自分で持てるから」

校門の外で困り果てていると後ろから「邪魔なんですけど」と低い声がその場を固まらせた。

私服でしかも左目には眼帯、そして髪は金髪の子が立っていた。

異様な雰囲気に、理佐を取り巻いていた集団が友梨奈の道をあける。

「ありがとうございます」

そう一言呟いて学校へと入って行った。

取り巻き連中が固まってる内に!と理佐は走って学校に入る事が出来た。
あの子のお陰だ...と理佐は思いながら自分の教室に入る事が出来た。


私が学校に入るとまず職員室に向かった。
ある程度柊さんが話しておいてくれたお陰ですんなりと教室の前まで来る事が出来た。
上を見ると1年A組という札がぶら下がっている。
そして、教室のドアが開きクラスメイト達のザワザワとした声が聞こえてきた。

「はーい、静かにー」

先生の声が教室中に響き渡る。
その声で生徒達はシーンと静かになった。
やば...今にも口から心臓が出そう...。

「平手さん、中に」

突然名前を呼ばれてハッと我に返った。

「今日から同じクラスメイトになる平手友梨奈さんだー。平手さん挨拶をして」

ゴクリと息を飲み、

「平手友梨奈です...。よろしくお願いします」

震えそうになる声を押し殺して呟いた。
私は目深に被ったフードを上げること無く頭をちょっと下げた。すると、クラスメイト達はパチパチと拍手で出迎えてくれる。
クラスメイトは一体どんな心境なんだろうか。
少し不安になっていると、最後尾の列の机の方から声がした。

「先生ー私の隣に平手ちゃんー」

思わず顔を上げると髪がさらさらで可愛い女の子が笑顔で手招きしていた。

「長濱ー勝手に決めるんじゃないー」
「いいじゃん先生ー」
「じゃあ平手さんは長濱の隣に」

お辞儀をして長濱さんの隣の席につくと可愛い子がにっこり笑って手を差し出してきた。

「え...」
「長濱ねるっていうの。よろしくね、平手ちゃん!」
「え...あ、よろしく...」

こういう子が可愛いって言うんだよな。
なんて思いながら軽く握手をしたが長濱さんの握力の強さに一瞬顔を歪めた。

「あ、ごめんね!私力加減しらんとっとよー」

本気で謝る長濱さんに苦笑して大丈夫と呟いた。


時間はあっという間に過ぎ、お昼休憩になると長濱さんが一緒に食べよと誘ってくれた。
でも周りの好奇な目に私は首を横に振った。

「長濱さん、私と居ると...」
「大丈夫!いい所あるからそこ行こう!」

にっこり笑って私の手を取ると屋上へと続く階段を登った。でも私にとっては地獄の場所だった。

「わー!良い天気ー!」

少し重い扉を開けると長濱さんが両手を上げて叫んだ。

「長濱さん...やっぱり私...」

こんな照りつける場所に居たら私の皮膚がただれてしまう。
引き返そうと思いながら踵を返そうとすると長濱さんと誰かが話していた。
何故か足を止めてしまった。

「あー理佐だー!!」
「ねる!!先輩って付けろよ!」
「いいじゃん別にー」
「良くねーよ!」

怒っている人がどんな人か何故か興味がわいた。
少しだけ屋上に出ると、長濱さんとある人がいた。

「てちー早く食べよー」
「て...てち...?」

長濱さんの私への呼び方に目をぱちくりしていると長濱さんの近くにいた人がクスクス笑う。

「そんなに固まらなくてもいいのに。私もてちって呼んでもいい?」
「え...あ、...はい...」
「私、3年の渡邉理佐。てち、よろしくね?」

あまりにも綺麗に笑うからつい見とれてしまった。

「お弁当食べるの?」
「そうだよー。理佐も一緒に食べようよ」
「こらっ!先輩って付けろよ」
「てち、良いよね?」

長濱さんのマイペースさに根負けした先輩は「ったく」と言いながら、お弁当を広げた。
けれどこの陽射しの中、私はお弁当を開ける事が出来ずにいた。すると長濱さんが私に気付いた。

「てち、どうしたとー?」
「いや...その...私...紫外線アレルギーで...」
「...あー、そうなんだ。じゃああそこ行こう」

口から出たでまかせだけど、先輩は建物で日除けになってる場所を指さしてくれた。

「そうだね。みんなで食べよー」

長濱さんと先輩も移動してみんなでお昼ご飯を食べた。私は叔父さんが作ってくれたお弁当を開けると大好きなオムライスと野菜が入っていた。嬉しくなって口角を上げると、先輩はそれを見逃さずお弁当を見て微笑んだ。

「てち、オムライス好き?」
「っ...はい...好きです」

恥ずかしくて顔を見れずにそれでもこくんと頷いた。
柊さん、ありがとう。と心の中でお礼を言い小さく「いただきます」と呟いてお弁当を食べ始めた。

みんなでお昼を食べ終えると、先輩は私の事を尋ねてきた。

「平手友梨奈ちゃんっていうんだよー」

と長濱さんはにっこり笑って「ね?」と言ってくれた。それに私は小さく頷いて少しはにかんだ。

「あー、そうだった。てち、今日朝ありがとうね」
「...朝...ですか?」
「うん。なかなか学校に入れなくて困ってたんだ。そしたらてちが「邪魔なんですけど」って言ってくれたから」
「あ、あの時の人...先輩だったんですね...」

確かに見覚えのある顔だと思ったら先輩だったんだ。
眼帯の下を掻きながら納得した。
すると、学校のチャイムが鳴り私達はお弁当を片付けた。

「じゃあまたね、てち、ねる」

先輩は可愛い笑顔を向けて教室へと戻って行った。
私達も立ち上がって自分達の教室に戻った。

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