最初のお金も返してもらえてない状態の中、あたしはまたすぐノンちゃんにお金を貸した。次のバイト代が入るまでの数日間をどうしても過ごせないと言う。

何に遣ったのか、厳しく問い詰めることもできなかった。

今思えば、言われた通りにすんなり貸すのではなく、どうしてそうなったのか、とかそういうのをちゃんと聞いておくべきだった。

だけどノンちゃんは1人暮らしだし家に仕送りもしていて、そしたら貯金なんて出来なくて。

そういうのを聞いていたから仕方ないのかなって思ったらあたしはノンちゃんにまたお金を振り込んでいた。

その時、初めて銀行で振込みカードというものを作った。ノンちゃんの銀行口座と名前が書かれてる薄っぺらなカードではあったけどこれがあれば、いちいち口座番号を押さなくともすぐに振り込める。

これを作った段階でまたこんな事があるだろうと予感していたんだと思う。


あたしは返済したところからまた借りたり枠を増やしてもらったり、新しく別のところから借りたり、ノンちゃんにお金を貸す為に自分の借金を着実に増やしていった。

毎月の返済額はあたしの収入を上回り、借金の総額も年収を超えた。

まともに返済なんて出来るわけなく、利子を返すだけでいっぱいいっぱいだった。

2日、3日返済が遅れるのもこの頃からしばしばだった。

大抵は電話すれば優しい声で了承してくれる。

NGなのは何も言わないで返済しない事なんだと思った。

ちゃんと伝えさえすればいいんだって。

こんな事を繰り返せば会社の考え方とかもだんだん見分けがつくようになって返済が滞って1晩危なそうなところから返すようになった。


ノンちゃんのお願い事は全部聞かないと、ノンちゃんが離れていってしまうんだ。

あたしはそう信じ込んでいた。

ノンちゃんがあたしに逢いに来る事はほとんどなくなり、毎日の電話もノンちゃんからワン切れがあるとあたしがかけ直すようになった。1人暮らしのノンちゃんが電話代でヒーヒーになるのを避けるため、あたしから申し出たことだった。

逢いに行くのもあたしが率先して土日が休みの時は金曜日、仕事が終わってから東京駅に急いだ。

土曜が仕事の時は我慢するか、それが出来ない時は仕事が終わって新幹線に飛び乗り、日曜の夜遅くに帰るか月曜の朝早くの新幹線に乗り、そのまま仕事に向かった。

こんな生活をしててもあたしはノンちゃんがすべてだった。

友達と遊ぶのにお金を遣うのが嫌で誘いには殆ど乗らなくなった。それでもあたしを心配して引っ張り出してくれる友達とは渋々逢ったけど極力お金を遣わないような遊びにとどめた。




ある時、上司の知り合いが札幌から東京に出張に来る事になった。

ホテルを探していて、何故かあたしがインターネットで探す事になった。

あたしは交通の便もいい、ノンちゃんが最初に東京に来たあの渋谷のホテルにしたらいいと思い立った。

だけど電話するとシングルは生憎その日はいっぱいだと言う。

残念、そこならけっこういいと思ったんだけど。

あたしは電話を切ろうとしたらホテルの人が慌てて言った。

「お客様、ダブルの部屋が空いております」

「いや、ダブルなら値段も変わるでしょうしいいですよ」

あたしが諦めの声で言うと

「いえ、シングルが空いてない場合のみ、ダブルの部屋をシングルと同じ料金で御提供するようにしているんです」

そんなサービス、損じゃないのかな~とあたしは思ったんだけど、値段変わんないし広くていいしお願いする事にした。


そんで思い出した。

ノンちゃんと泊まったあの部屋。

あれもきっと元々はシングルで取ろうとしてたんだ。

運よくダブルしかなかったんだ。

あたしはすごく嫌な気持ちになった。

「やっぱりいいです、ごめんなさい」

あたしは電話を切ってしばらく押し黙っていた。



ノンちゃんは長く勤めてたうちのバイトを辞める事になった。

4月から新しいところに入りたかったらしいけど就職活動が間に合わず5月のGW明け入社になった。GWはあたしはノンちゃんに逢いに行く事になっていた。

ノンちゃんの会社は東京にも支社があってノンちゃんはあたしの為にそこを希望してくれたと言う。社長もそれを了承してくれたと言ってあたしは嬉しくて喜んだ。

だけど結局それはぬか喜びに終わった。

ノンちゃんの東京行きは少なくとも3年は先だと言われたらしい。

ノンちゃんはあたしに言った。

「大阪来いや」

いよいよだ、あたしはそう思った。