「借金?」

自分の心臓の音が姉に聞こえるのではないかと思うほど私はドキドキしていた。

「嘘は言わなくていい。入院中に電話があったの」

ごまかしはきかないだろう。

瞬時に判断した。

「電話?」

唇が妙に乾いていた。カサカサしている気がした。

「T社ってとこ。黒岩って男から」

やっぱり。 

かかってくるとしたら唯一揉めたあの会社からだろうと思った。

私が黙っていると

「あたしがたまたま休みの時に手紙がきてたのね」

姉は私宛の手紙を何かのDMかと思い、無意識に開封してしまったという。

そして中身を見た。

返済が遅れているという内容だった。残額が40万。姉はすぐに電話した。黒岩が出た。姉は私のフリをして内容を聞き出したー。

全て姉が勝手にした事ではあったが文句も言えなかった。

やり場のない気持ちは黒岩への怒りに変わった。

どうして。

電話をしない約束だった。

待ってくれる約束だったのに。


「ごめん」

たったその一言を口にした瞬間、何故か涙が溢れた。

姉はそれをじっと見ながら言った。

「どうして借金なんか」

私は泣きながら、頭の中で1番効果的な理由を探していた。

そして思いついたのは姉も知っている男の事だった。

「あの人に・・・借金があったの。一緒に返してた。」

嘘ではなかった。借金があったことは。

実際、私はあの男に相当な金額を与えていた。嘘ではないのだ。

姉は大きなため息をついた。

「お母さんには黙っててあげる。残金は全てあたしが払ってあげるからあんたはあたしに毎月返しなさい。いくらずつ払ってたの」

「・・・1万5千円」

これは理想の返済金額であって、私は利子を支払うのでいっぱいだった。

「じゃあ、その金額を毎月あたしに給料出たら払って。いい?」

私は頷いた。

「明日、お母さんも仕事行くだろうから、昼に電話して返済方法を聞くこと。必ず完済した明細を見れるように聞くんだよ」

姉は私を責めなかった。私があの男の事で苦労した事を知っているからかもしれない。私が怒りを黒岩に持って行ったように姉のそれもあの男に行ったのかもしれない。

「他にはないね?」

私は泣きじゃくりながら頷いた。さすがの姉も総額を聞いたら恐れおののくだろう。大体、私自身も総額がよくわからなかった。

「本当に?」

「ない」

「絶対?」

「絶対に」

「そう、じゃあそれを必ずやっておいて。今日はもう早く寝なさい」

姉が扉を閉めようとする。

「あ」

思い出したように立ち止まり、姉は言った。

「退院おめでとう」