人と人の出逢いと別れはあっけないほど簡単にやってくるものかもしれない。

あれから4年。

あたしはもうただの子供じゃない。

リュウと出逢ったあの頃のあたしはもういない。探しても見つからない。

この4年でいろんな事があった。

リュウの事ばかり考えたりしてたわけじゃない。むしろ忘れてる時の方が多い。

だって、あたしとリュウが逢ったのは数える程度。

その殆どをセックスだけで過ごした。

リュウの家族や友達の話も知らないし、同じようにリュウもあたしの事を何も知らない。

確信を持って言えるのはリュウがセックスが上手なこと。

あれは最高だった。

だけどそれだけで、リュウの彼女になりたかったかどうかも、よくわからない。

リュウと逢わなくなってから、恋もした。泣いたし笑ったし、数え切れないくらい、いろんな感情と付き合ってきた。

だけどどんな時だって、前へ前へ進む事だけは休んでいない。


思い出というのは時間が経つにつれて美しく鮮やかによみがえるものだ。

どんな酷い内容の記憶であっても乗り越えられた事が自分の中で自信になって改めて思い出す頃には笑えたりする、許すことも出来る。

リュウとの間には薄い信頼関係すらなかったけれど今思えば悪くなかったと思う。

幼いあたしは1度にいろんなものを欲しがりすぎて、結果的にはこぼしてしまった。

だけど手に入れたものもたしかにあったと思いたい。

リュウを好きな自分が好き。

それは間違ってるけど間違ってない。


「無理だと分かってたけど結婚とかしたかったのかも」

「は?」

ミナが笑いを含んだ声で切り返す。今日は九段下まで夜桜を見に来ている。

ミナはあたしが紹介した河合さんとはとうに別れてその後1年彼氏がいなくてやっと出来た彼氏と別れて今はフリー。

「いや、無理だよ?闇金なんてさ。だいたい結婚なんて・・・けどあの頃はしたかったのかも。いや・・・嘘。ああ・・・でもしたかったのかな、わかんない」

「あんた言ってること滅茶苦茶」

ミナが今度こそ笑った。あたしは大きく息を吸い込んで

「滅茶苦茶で結構~~~~!!!」

叫んだ。

こんな大きな声、大人になってから初めて出したかもしれない。

「ちょっと!やめてよ」

ミナが焦ってあたしに言う。周りが皆あたしたちを見ている。でも構わなかった。見たければ見ればって感じだった。

「ふふん、大きな声出したらスッキリ」

「今更?」

ミナは眉間に皺を寄せながら片手に持ってたビールを飲んだ。

「そう、今更」

「何年経ってると思うんだよ」

ミナが笑ってまたビールを口にした。

あたしも缶チューハイをごくりと飲んだ。温くなったアルコールが喉に潤いを与えた。



思い出は大切だし忘れたくないけど。でもさ、写真撮ってたわけじゃないしさ、リュウの顔なんてもう正直忘れちゃったんだよ。だってその後にもたくさんの人たちと出逢ってるわけで。

だけどね、だけどあの汚れた白いパンツの裾だけは何故か今もはっきりと思い出すことが出来る。もしかしたらこれから先、いろんな思い出と混ざり合って忘れてしまうかもしれないけれど。



そう、今でも思い出す人がいる。

いや、思い出す色というべきかな。

それは白。

だけど酷く汚れたくすんだ白、瞳を閉じて思い出すのはその色だ。

そして少しだけ、ほんの少しだけ、気が遠くなりそうなくらい暑かったあの夏の恋を、うまくできなかったあの恋を、あたしはもう1度したいと思うのだ。

強く、強く思うのだ。

それは身体中から心の底から。

短い夏の、短い恋・・・のようなもの。

元気かな?何してる?

届かない想いはいつかそのうちぼやけて消える。

その日まで。


その日まで、浮かび続けるあの白を、あたしは忘れない。