最近はこういったことを書かないようにしていますが、お客様との出会いの話。

少し長めです。



数日前にひょっこりいらしたおばあさま。

店に並べている私の私物の急須を見て、


「これ、売っているの?」


「あ、申し訳ありません、私の私物なんですよ。私、緑茶も好きでして・・」


「そう、残念。この急須と同じものを持っていて、先日お揃いの湯冷ましを割ってしまったのよ・・・。それからなんだか緑茶を飲む気がしなくて・・・」



しばらくして他のお客様がお帰りになったときにふとその言葉が頭をよぎってオークションサイトを探してみた。

すると同じものがある。しかも低価格。


(パソコン持って行って)

「これ、オークションサイトなのですが、今1000円で建水と湯冷ましがちょうど出ています!これ、代わりに購入しましょうか?」


もしかしたらこれから値段が上がるかもしれないこと。

いくらまでならお金を出す気があるか。

とリサーチしてまた数日後、と別れる。



今日またひょっこりといらしてくださった。

1000円で購入できましたよ、送料もあるからもう少しかかりますけど。
湯冷ましの話から、他愛のない話に発展し彼女はぽつりぽつりと自分のお話をはじめた。


農家で育った戦時中の話。

だんなさまの若い死。
女一人の子育て。
商売を数十年していたこと。
それをやめざるを得なかったこと。

家族にも話していなかったこと。





「ごめんなさいね。長話をしてしまって。

でもあなたに話したらなんだか気持ちが楽になったわ。
ありがとう。

なかなか人には話せないのよ。家族にも迷惑かけちゃうでしょ?

また来るわね。」

「今度いらっしゃるときには湯冷まし届いていますから、またおうちで緑茶飲んでくださいね。」



そういうと、いつ死ぬかわからないから、生きていたらまた来るわ、なんてウィットに飛んだ言葉が返ってくる83歳の素敵な女性。




自分のやっていることなんて無駄なのではないか。

時折すべてを投げ出してしまいたくなる。

気持ちが滅入るような、先の見えない日々が続いていた。
もちろん急に闇が晴れる訳ではない。

それはまだまだ続くだろう。


でも今日私はその女性の「ありがとう」に救われた。

ぼんやりと祖母のことや母のことを頭に浮かべながら、自分の存在価値を少しだけ感じることができた。

こちらこそありがとう。

ありがとう、は魔法の言葉。



1464183461979.jpg



こんな素敵なご縁をくれた湯冷ましに感謝。