夜の住宅地を青年が一人で歩いている。
既に周りの家の電気は消えて、住宅地には人気はない。
(なんか最近寝付きが悪いなぁ…)
青年は取り留めのないことを考えながら歩いていた。
(昼間暑かったけど、この時間になると風邪は涼しい。明日も学校だし、そろそろ部屋に戻って寝るかな)
青年は深夜の散歩をやめて帰ることにした。
(結構歩いたなぁ…ん、何かいる)
青年の10メートルほど先に誰かが座っている。
(人か。なんでこんな時間に?)
時間はもう深夜3時、平日の住宅地に人がいることは稀だ。
(酔っ払い?今日火曜だぞ?ん、女の子か?制服?
あれは多分近くの星浄高校の制服だな。)
民家の塀に向かって高校の制服を着た女の子が座っている。
(なんでこんな時間に…?どうしよう、気になるな。
1.どうしたの?大丈夫?
2.やっぱりなんか変だしスルー
どうする俺!?やっぱり人としては1だなぁ。)
青年と女子高生の距離はあと2メートルほど。
「なんで…の。…なの。」
(うわ!なんかぶつぶつ言ってるよ…どうしよう、やっぱり2で行こう。スルーだスルー。)
「なんで私なの。なんで、なんでなの。」
(なんだよ、なんだよ、こえーよ。十字路曲がったらダッシュで帰ろう。)
「なんで…の。…なの。」
声が少しずつ遠ざかって行く。
十字路まではあと5メートルほど。青年は少し早足で歩いている。
「なんで無視するの!なんで声をかけてくれないの!なんでよ!」
(あ、え…)
青年は条件反射で、振り返った。
すぐ後ろに女子高生が立っている。
長い黒髪。綺麗な顔立ち。
だが、凄まじい形相で青年を睨みつけている。
青年は凄まじい形相をみて声を出せない。
「え、あ。」
女子高生は細い首から血を流している。
なぜ立っていられるのかわからないほど、制服を血に染めている。
首と制服を見て青年は叫び声をあげた。
「うわああああああああ!」
青年は瞬時に踵を返し、必死に走った。
(おかしい、おかしい、おかしい!)
もう声は聞こえていない、気配も感じない。
(なんなんだよ。なんで睨まれなくちゃいけないんだよ。なんであんなに血を流して立ってられるんだよ。くそ、くそ。)
青年は一人暮らしのアパートまで来た。
(もう大丈夫だよな?)
振り返るが誰もいない。
(とりあえず部屋に入ろう…)
先ほどまで涼しかった夜風は、生ぬるくなってしまっている。
続かない。