今日はサラ・ペイリンがインディアナに来る日だ。
しかも先日私が訪れた、州南部のジェファーソンヴィルにやってくる。
一方、オバマは今夜、CBS、NBCほかテレビ7局の放送枠を買い取って特別番組を放送する。ジェファーソンヴィルでのペイリンのラリー(集会)と、ほぼ同じ時間帯だ。
昼前からいつものマリオン郡役所ビルで、期日前投票のビラ配り。
ダウンタウンのここはオバマ支持者が多い。これまで選挙なんて行ったことなかったような不良っぽい黒人の若者とかが期日前投票にやってくる。例によって私のオバマバッジを見ると喜ぶ。「オバマは俺の父親だ」とか言ってる若者までいる。こうした連中にオバマは支えられている。従来なら投票に行かなかった層、非白人の貧困層や20歳前後の若者を投票に大量動員するのがオバマの主要な選挙戦略。彼らに確実に投票所に行ってもらうことがオバマ選対の目下の至上命令となっている。
「オバマはすでに勝てるだけの票田を持っている。それが確実に投票箱に入るようにすることが、勝つための最大の課題だ。マケインの票をぶんどることが目的じゃないんだ。」とは、選挙オタクのマット君の見解。
マット君と昼飯を食べたところで、ペイリンを見てみたいという気持ちが抑えられなくなった。
報道によればペイリンの集会(ラリー)は連日超満員で、ペイリンが大好きで集まった観衆が熱狂的な歓声をあげてすごい盛り上がりだという。
オバマのサイドにいると、このペイリン人気というのが今ひとつよく分からない。
「頭が悪くて、しゃべりが下手で、口を開けばオバマの誹謗中傷ばっかりしている人」
「衣装に法外なカネを使っていて、マケイン陣営の中でも嫌われている人」こんな印象しか持てない。これでは好きになりようがない。何がそんなにいいのか。
これまで何人かに聞いてきたが、「共和党は彼女でしか盛り上がれないからじゃないの。マケインははぐれ者だし。」という人が多かった。そうなんだろうか。
そのペイリンがインディアナに来る。がぜん、確かめたくなってきた。
グレイハウンドのバスターミナルへ。ルイヴィル行きは14時30分のバスがあるはずだ。
チケットカウンターに行くと、こないだと同じ黒人男性がカウンターに立っている。念のためオバマバッジはすべて外してきたのだが、「おっ、あんた覚えてるよ。ルイヴィルに行くのかい。」「じつはオバマキャンペーンに密着しているんだ。」まさかペイリン見に行くとは言えない。「そうなのか!!」彼はチケットを割引までしてくれた。神様仏様オバマ様だ。ペイリン見に行くなんて罰あたりですみません。
ルイヴィル着16時40分。あらかじめ呼んだタクシーで移動。片道30ドルくらいで済むはずだ。ラリーは18時30分スタート。まだ時間はある。「どのくらいで着きますかね」「15分くらいじゃないかな」「そんなに近いの」「すぐですよ」そんな会話を交わしていたのだが、ところがどっこい。ハイウェイの出口手前で車がビッシリ。「こんな渋滞、雪の日でもなきゃ見たことないなあ。事故かな」と言っていたが、どうやら混雑の理由はペイリンのラリーに向かう車らしい。なんと。回り道をしてもらうことに。
ラリーの会場はジェファーソンヴィルでも郊外にある工場団地みたいなところ。周辺の道路は、案の定、大混雑になっている。ペイリン人気は本当だった。車を降りて会場へ。
中に入ると、ペイリンバッジを売っている。不審がられないように2個買って、着ける。マケインのウェブサイトには「インディアナをレッドステートに守るため、何か赤いものを着てきてください」と書いてあったので、インディアナ州立大学の赤い帽子をマット君から借りてきた。非白人で、一皮剥けばオバマ支持者だから、ちょっとしたことで何か言いがかりをつけられるのではないかという恐れを抱いていた。小心者のようだが、そういうことが起きかねない感じがしたのだ。
会場は、本当に白人しかいない。しかも裕福そうな人ばかり。思った以上に違和感がある。ステージ付近はVIPやチケットホルダーしか入れないので、柵の手前に立って待つ。人がひしめきあっている。しつこいようだが周りはみんな白人ばかり。じろじろ見られるし居心地が悪いことこの上ない。
会場では、テレビに映るあたりに"I ❤ Palin."とかの手書きのボードが配られている。なぜか黄色いヘルメットも配られた。"Joe the Plumber "というやつだろう。気がつくと私の背後にも多くの観衆が押し寄せている。星状旗をあしらった服を着ている女性などもいる。
SODREL下院議員候補があいさつ。「アメリカの自由は銃によって勝ち取ったものだ。独立戦争で、南北戦争で、多くの人々が自由のために命を賭けた。その自由を世界に広げるため、第一次大戦、第二次大戦、そして朝鮮、ベトナム、イラクで、多くのアメリカ人が戦い、倒れた。こうした自由が今、脅かされている。オバマ氏の減税政策は、政府が皆さんのポケットに手をつっこんで、好き勝手に使おうというものだ。アメリカの伝統である自由を守ろうじゃないか。」
観衆から"USA、USA、USA・・・"のコールが沸き上がる。
カントリー歌手のハンク・ウィリアムスJr.が登場する。ペイリンのラリーにはすべて帯同していて、鈴木宗男と松山千春のような関係だ。歌いながらオバマの悪口を言っている。
「上院議員としての実績なんてこれっぽっちもありゃしない。州議会議員時代のシカゴの地元選挙区は、犯罪も教育も統計は最悪。大統領になったらワシントンに行って、全米をそんな風にするつもりか。」「民主党の嘘つきどもはニューヨークやシカゴを押さえれば全米を押さえられると思ってやがるが、俺たち田舎者はそうは行かないぞ。」
そんな感じの話をしている。観衆は拍手喝采しながらもペイリンの登場を待ちきれない様子。
そこにペイリンが登場した。
「次の副大統領、サラ・ペイリンです!」
落ち着いたブラウンのスーツ。旦那が隣に立っている。会場はもう大変な騒ぎだ。しばらくスピーチが始められない。
この中にベテラン(退役軍人)の方はどのくらいいるかしら?手をあげてください。皆さんに心から感謝するわ。そしてジョン(・マケイン)は皆さんのことを良く分かっている。彼は22年間も軍人として奉仕し、そのうち5年半をPOW(捕虜)として過ごしたのですから。ジョンは闘う男。真面目に働く皆さんのために闘ってきた男です。ジョンと私は政府の無駄遣いと闘い、ウォールストリートの強欲と闘うことを誓います。(大拍手)
オバマ氏の来歴をあげつらうのは誹謗中傷でも何でもない。彼の候補者としての資質、思想信条、交友関係、政策を検証することは、必要なことなんじゃないでしょうか。違いますか?(拍手)
オバマ氏は税金を高くする法案に94回も賛成しています。政府の何兆円もの無駄遣いを作り出してきた側にいたんです。つまり、彼は大きな政府と高い税金を推進する立場なんです。
彼の減税政策を見てください。95%の納税者を対象に減税を実行するというけれど、国民の40%はそもそも所得税を払っていない。そういう人たちには戻し減税として給付金を与えると言っています。つまり、彼は真面目に働く皆さんからカネを巻き上げて、政府の好きなようにバラまくんだと言っているんです。
メディアが指摘しなかったオバマ氏の真意を見事に見破ったのが、"Joe the Plumber"(配管工のジョー)でした。彼はオハイオに来たオバマ氏にこう言ったんです。それは俺にはSocialistic(社会主義的)に聞こえるね、って。(大大拍手)
この会場には、Joe the Plumberがたくさんいます。Joe the Soldierもいます。Joe Mamaっていうのもいますね。(歓声)Joe the Plumberは、そうした一所懸命働くアメリカ人の代表選手なんです。そのジョーの真摯な問いかけに、オバマ氏の陣営はまともな答えを返すこともなく、なんと彼の私生活を詮索しはじめた。配管工のライセンスがないとかどうだとか言って。(ブーイング)
政府が問題を解決するんじゃないんです。政府こそが問題の根源なんです。大きい政府にすれば、結局は経済成長に悪影響を与え、人々のチャンスを摘み取ることになってしまいます。私たちは皆さんのカネを誰かにバラまくんじゃなくて、すべての皆さんにチャンスをバラまきたい。私たちはアメリカというのは一所懸命頑張ればチャンスがつかめる国だと信じてきたじゃないですか。(拍手)
その後、「ガソリン高騰対策として、国内での石油採掘をガンガンやるわ」というペイリンお得意の"Drill, Baby Drill."の話をして、観衆、大盛り上がり。
帰りのグレイハウンドバスに間に合わなくなるといけないと思って、大観衆の中を抜け出す。すごい人数になっている。フラットな会場なので数えにくいが、5,000人以上はいたと思う。でも10,000人まではいかない感じだ。それにしても多い。広い会場内で歓声が反響し、実際以上に大きな音になっている。考えられたセッティングだなと思う。(ちなみに陣営発表の公式動員数は16,000人のようです。)
会場の中を出口へ歩いていると、また割れんばかりの歓声があがる。ペイリンが「特別なニーズのある子どもたちへのケア」について触れたようだ。彼女はアラスカ州知事就任後にダウン症のある赤ちゃんを授かり、そうと知りつつPro-Life(中絶反対)の立場からあえて出産に踏み切ったという経歴を持っている。どうもこれがペイリンの必殺技になっているようだった。
なるほど盛り上がっている。ペイリンのスピーチもなかなかどうして、堂々としていて悪くなかった。誰か他の人が書いた原稿を読んでいるだけにしても、立居振舞いは立派なもので、短期間で良くここまで成長したなと、正直、感嘆した。
しかし来ているのは全部白人だ。しかも白人でも比較的裕福な人に限られている感じもする。来ている車のナンバープレートを見ても、州境の向こうのケンタッキーから大挙して押し寄せているようだ。会場の熱狂的な盛り上がりとは裏腹に、支持者の裾野は決して広くないのではないかという印象を持った。それだけに今の状況にフラストレーションを抱えた同質の観衆が大集結したラリーで爆発するのではないか。
今回の大統領選は、突き詰めると「アメリカは誰の国か」ということがテーマなのではないかと思う。先日Youtubeのオバマ応援歌を紹介したが、その中で"This is My America, Your America, and Our America."と言う時に、どこまでを"Our America"に含めているのかということだ。
ペイリンのラリーにいた人は、この国は"Our America"だと思っている。しかしその会場には、非白人は私くらいしかいない。その違和感は大きかった。
この話は今回の旅の結論として詳しくしたいと思っている。
会場を出たのが20時半頃。急いでルイヴィルのグレイハウンドのバスターミナルに行くと、あると思っていた21時30分のバスはないということがわかった。次のバスは0時。おいおい。3時間近くもあるじゃないの。
周りは人通りも少ないし、知らない街を夜に歩くのもどうかと思ったので、ずっとバスターミナルにいることにする。バスターミナルではCNNが流れている。今晩のオバマのテレビ特番は好評だったようだ。コメンテーターのデビッド・ガーゲン氏(4人の大統領のアドバイザーをやった人)は、"Extremely well-done."(極めて良い出来だった)と言っていた。500万ドル(5億円!)も投じたことに批判が出るんじゃないかと思っていたが、良かった。
これからフロリダではビル・クリントンとオバマが一緒に登場するという。この選挙戦で初の共演となる。しかしもう22時半だぞ、これから集会やるの。そうこうしているとライブ中継でビル・クリントンとオバマが揃って登場した。ビル・クリントンが話す。
「どうだ、この大観衆を見てくれよ。ただ大きいだけじゃなくて、ものすごく多種多様じゃないか。僕のような白髪の年寄りも少しはいるようだが、まあ内訳までは今は分からないがね。
これこそ、アメリカの未来だ。アメリカの未来はこのようなものであり続けるんだ。バラック・オバマはアメリカの未来を代表している、だからこそ君たちは彼のために火曜日に投票に行かなければならないんだ。」
ビル・クリントンの演説からは、ペイリンのラリーとは違う"Our America"が立ち上がってくる。
結局、インディアナポリスには2時過ぎに着いた。







