ホテルといってもストゥディオスイートという日本でいうウィークリーマンションのようなところで、キッチンや大きな冷蔵庫のついている広い部屋。もちろん冷蔵庫の中はカラ。まわりに店もなく、ホテル内にも何もなく、最初の夜は腹をすかせて過ごした。明日は部屋のベッドメイキングも入らないそうだ。過剰サービスなしで実質的なのはアメリカ的だが、むしろその方が気が楽ではある。
朝4時すぎまで寝つけなかったが、7時前には起きてしまった。やはりナイ・ナーバスだろうか。ナイ教授に何を話すか英語でシミュレーションしてみたりして。
テロ国家リストからの北朝鮮の削除をあんな形で伝えてきたことは、アメリカへの不信感を生んでいる。拉致問題は国民の同情心を喚起するので、アメリカが考えるよりずっと日本政府が国民世論を引きつける上で重要なイシューだ。結局アメリカは守ってくれないという感覚が日本国民の間に強まるのは、アメリカにとってマイナスなのではないか。そういうことを、ナイ教授にぜひ話したいと思っている。
ナイ教授との面会は14時。お昼も食べたいので11時にホテルを出ることにする。ハーバードスクエアまでは30分ぐらい。きのう世話になったキャブステーションに電話する。
車内から見える住宅地の風景、とくに紅葉がとても美しい。運転席からはラジオが流れ、大統領選のことを話している。オバマの経済救済策は眉唾だというような話だった。英語の練習と思ってドライバーと話す。「私は大統領選のことを調べに来たんだ」と言うと、態度が一変。身を乗り出すように話しはじめた。オバマが勝つだろうということで意見が一致。「もうみんなイラク戦争にうんざりなんだ、誰も死んだり殺したりしたくないだろ」と。ドライバー氏はアルバニアから7年前に渡ってきたそうで、いかにも南欧から来たという感じの50歳ぐらいの小柄なおじさんだ。まだグリーンカードで大統領選の投票権はないが、あと1年で国籍を得られるらしい。ヨーロッパでもブッシュは不人気だねと言うと、He is unpopular everywhere.。でも日本では人気のあった小泉という総理大臣がブッシュと昵懇で、テロとの戦いも強く支持したんだよ。オバマは日本のことをよく知らないみたいだし、日本が軽視されるのではないかと心配している人もいるよ、と話す。「それならオバマを招けばいいんだ、彼のことを知ればみんな好きになる」と。とくにアジアは中国が台頭して日本のライバルになりつつあるから、オバマが日本より中国を大事にするんじゃないかと気になっているよ。「いや、そんなことはない。中国は日本とは違う。日本はallyだけど、中国は友人ではなくどちらかと言えばenemyだ。オバマは賢明だから日本を軽視するようなことはしないだろう」と。いつも思うが、この国ではこんな人がと思うようないわば下層の人でも、政治について驚くほどしっかりした意見を話す。やはりここはアメリカだ。
ハーバードスクエアで降りる。まず目についたのは、ホームレスと思しき白人女性が横たわっている姿だ。ふたりもいる。特有のニオイがあたりに漂っている。彼女たちの惨めな姿はサブプライム問題と関係あるのだろうか。
とりあえずハーバード周辺を歩いてみる。周辺の煉瓦造りの美しい建物群が、すべてハーバードの建物である。芝生の上ではリスがちょこまか。日本の大学とはスケールが違いすぎる。すばらしい環境だ。ハーバードスクエアのau bon painでチキンBBQサンドイッチとシチューを。目の前では青いTシャツ姿の若者たちが、街角に立ってオバマのために献金を呼びかけている。彼らがハーイ、と声をかけると、人々は次々に立ち止まって言葉をかわしている。ベビーカーの若いママ、ビジネスウーマン、学者風の男性、次々に。学生と思しき青年は、青Tシャツの男性に話しかけ、堅い握手をかわしている。ここの若者たちには、オバマのサポーターであるということで不思議な連帯感が発生しているようだった。立ち寄ったカフェでもオバマのTシャツを着た店員がいたり、学生が広げているノートパソコンにオバマのシールが貼ってあったりした。
青Tシャツの“オバマ隊”のひとり、マギーという女の子に話しかけてみた。大学を卒業したばかりで、今はDNC(民主党全国委員会)で働いているそうだ。なんだ党職員なのか。
ちなみに大統領選の候補者への献金は、アメリカ国民か永住権の保有者しかできないことになっていて、外国人の私は献金できない。
さあ、ケネディスクールだ。緊張してきた。


