こんにちは 何かお手伝いできることはありますか?

 

 ある生成AIを起動すると最初に出てくる画面の文字だ。

 

 何でも質問してください

 

 薄くグレーの文字でそう示されるテキストボックスに質問を入力する。苦労して調べる必要もない。何でもすぐに答えてくれる。何でも即座にかたちにしてくれる。かたちが整えられていて、見栄えもいい。効率が良く、作業時間の大幅な時間短縮にもつなげられそうだ。

 

 何でも教えてくれて、全て受け入れてくれて、理解を示してくれる。もう難しく考える必要もない(そう。代わりに考えてあげる。)。それさえあれば、苦労して学ぶ努力をする必要もない。どれだけ甘えても、我が儘を言い続けても、悪口を言う心配も、喧嘩するような恐れも無い、気遣いも不要の、付き合いやすい、とてもいいやつだ(何でも質問してください。)。自分だけでは解決できそうもないことを助けてくれる存在はありがたい。自分の最大の理解者(何かお手伝いできることはありますか?)。それがそんな存在になってしまえば、もう友だちだって要らなくなる(「やさしい悪魔」に虜にされて。ヒッヒッヒ。)のかな? 

 

 実際、友だちや恋人(きゃー!)甘え続けることや我が儘を言い続ける(してみたいけど嫌われるね、多分。)ことはできないよね。人間が理解し合うのは難しいことで、お互いがお互いのことをよく考えようとしなければ、2人の関係は終わってしまう(かなしい思い出だけが残る。)。自分以外の誰かを理解するというのは、簡単なことじゃない。何を考えているのか、どのようなことが好きなのか、分からないから、関係を大事にしたいと思い、考える。そして、優しくなることができる。

 

 1冊の本を読むのも同じ。分かりにくさの塊のような言葉の並びを目の前にして、辞書を引きながら、何とかそれを理解しようとして、たった1人でそれに挑むような読書。それで本当にいいのかな、と疑問を持ち続けて、自分自身が、本当に、切実に、気になることについて書かれた1冊の本に、1人の著者と対話するようにして向き合うこと。面倒に思うかもしれないけれど、そうしたものが人間をつくる(でも、読んでない人、多いよね。)

 

 いろいろ誰かに話を訊いても、あれこれ検索して調べても、何冊もの本を読んでみても、納得できずに、あれでもない、これでもない、分かりそうで分からないものを分からないままに、モヤモヤした気持ちを抱え込んで、ずっと考え、誰も見出したことのない答えを求め続けるような。

 

 「探究」することの面白さは、面倒でたまらないようなそんなところにあるはずなんだけどね。生成AIにもできないような、誰も答えを出せないような、難しいものを考えること。考え続けたいものがあるからこそ、進学したいという気持ちにも繋がっていくとも言えるかな。

 

 けれど、進学して考え続けるための、基礎としての受験科目の、どの科目でも、出題の問いかけは「言葉」で為されるのが常のことであるし、その理解が及ばなければ、答えることもできない。「言葉」に強くなることは、「考える」ことに強くなることでもある、ということも意識したいところだね。

 

 全教科に通じる「思考力」アップの訓練として、何か良い方法はないものか、と前任校の進路室で二人の先生と話すうちに思いついたのが、全国三紙のコラム欄、『朝日新聞』の「天声人語」、『毎日新聞』の「余録」、『読売新聞』の「編集手帳」を、毎朝のショートホームルームの開始一分を使って読む、という活動だった。

 

 同じ日の記事でも、各紙、三者三様。話題が同じこともあるけれど、その切り込み方には違いがある。読者に様々な問いを投げかけてくる。その日の記事に触れることで、今、この時の社会の動きを見る、感じる、「探究力」を身につけることにもつながるし、出来事に関連して異なるものごとをつなげて展開するというコラム独特の「発想力」を学ぶこともできる。

 

 時間制限を設けて、3つの記事を1分間で全てを読み切るのは難しいこと。それでも、「1分」と設定することには意味がある。

 

 「集中した1分」で1日のスタートをみんなでつくり、始業時の気持ちの切り替えを強く意識してもらうということ。加えて、「1分」という時間感覚をしっかりとつかみ、「集中力」と「瞬発力」を高める効果をねらう。つまりは、毎日継続する基礎的なトレーニングとして位置づける。受験する上で避けては通れない、共通テストをはじめとする入試問題には制限時間があって、速さと正確さがその勝負を分けることにもなる、ということも事実。「読む」速さは「考える」速さと比例する、ということを受験生であれば意識した方がいい。

 

 最初にどれを読むのか、発展してどのように活かすのかは、各自の自由。余白に疑問や思いつきをメモしてみる。気になるところや意見の中心を見つけて傍線を引く。意味がよくわからない言葉について辞書を引いて、言葉の知識を豊かにしてみたり、要約の力をつけるため、見出しを考えてつけてみたり。気になるところの英訳を試みて、英語の先生に添削してもらう、なんていうのもいい。ファイルして、小論文や面接の入試対策用に備えるのもいい。気になったことについて他の新聞記事を読んでみれば尚更いい。そして、紹介されていた本や作品に触れてみるきっかけにもなればいい……。読んだらゴミ箱にポイ捨て、というのもいいけれど、勿体ないから、捨てる前にその裏は小テスト準備の暗記用に書いて覚えるために使うとか……。アナログだって捨てたもんじゃない。読んで心に何か引っ掛けておく、というのでも、充分だけどね。

 

 簡単、便利、もいい(何でも質問してください。)けれど、頼り切って(「やさしい悪魔」に)ばかりは、怖い。考えることが好き、であってほしいよね。