りんけんの音楽余話

「音の解釈と調弦」

1984年8月4週目 沖縄タイムス掲載

 

 弦楽器を習うと何度かチューニングの難しさに頭を痛める。ピアノやオルガンのような鍵盤楽器を学ぶ人には理解できない「音を合わせる」苦しさを味わう。

 フレットがついているギター等は低い音のボジションと高い音のボジションとの関係でなかなか完全なチューニングができない。

 フレットのない三弦(さんしん)はギターほどチューニングの難しさはない。指の位置で音程がきまるので、演奏者によって音程の差はあるが、それが三弦のよさでもある。

 三弦と西洋楽器との合奏で三弦が半音近くズレていても気にならい時もあるし、独奏で多少の音程のズレもそれぞれに味がある。

 昔の人が採譜した古典音楽や民謡などの曲に、あきらかに半音に近い音程のズレがあったりする(ある一つの音)。西洋の音程(ピアノ)で書かれた楽譜(沖縄民謡)はかなり無理があるにせよ、一個の音程が半音も違えば調(キー)が四度も変わってしまう。

 西洋音楽をまったく知らない昔の人の音程の解釈が現在の人とはかなり違う。

「かぎやで風節」の合尺工のフレーズの「尺」の音はピアノの「B」の音であると解釈したくなる世代と、「B」の半音下がり、つまり「Bフラット」と解釈する世代、それに「Bフラット」「B」の中間と解釈する世代が今、この時代に同居している。

 三弦の音程のズレは音の解釈にまでおよんでくることが分かってきた。

 

(照屋林賢·音楽家)