2023年5月17日。
今年76歳の私にとって、この日は心に残る大切な一日となった。
ここ数年の間に私より年長者の友人達は、一人又一人と次々と老後の施設への入居となって、だんだん寂しくなってきていた。
高齢の彼女達は携帯電話も使えず、コロナ感染の予防の為面会も出来ないので、私の方から施設の職員さんに近況を尋ね、伝言をお願いするしかない日々が続いていた。
そんな中、同じ町内で私より一歳年下の友人が、今から二年前の四月一日、自宅で突然くも膜下出血で倒れた。
当日も私からeメールを送ったが、いつもなら即返信が届くのに、その日に限ってなかなか返事が来ない。
どうしたのかな?とは思っていたが、まさかその時彼女は救急車で病院に運ばれて手術を受けていたとは思いもしなかった。
脳の血管が破裂して出血した部分を取り除く開頭手術を受けたとの事を、二日後ご主人からの電話で初めて知った。
まさかあの元気いっぱい、いつも笑顔でおしゃべり好きな彼女が、突然倒れて意識が無い状態になったとはどうしても信じられない私だったが、兎に角緊急の事態のその時私に出来る事はと言えば、近くの神社に彼女の無事を願ってお参りに行く事位しか思い付かなかい。
コロナが発生するまでは毎朝早朝から日参していた公民館のそばにある神社にと急いで祈願に走った。
そして彼女も毎月の様に参拝していた神社へと神社巡りをして彼女の無事生還を祈り続けた。
病院の先生方や看護師さん達の緊急時の適切な処置や懸命な努力、そして彼女の生還を願う家族の祈りが天に通じたのだろう、そして何より彼女の生命力と生きることへの希望が意欲となって蘇ったのだろう。
彼女は無事生命の危機から脱出することが出来た。
そしてその日から病院のベッドで寝たきりの状態が続き、コロナ禍で家族以外は面会も許されないまま二年の月日が流れた。
しかし今月8日からコロナ感染症対策が5類に引き下げられて、家族以外にも直接面会が出来る様になって私も二年ぶりの再会が許される事となった。
面会当日、病室に入るまではドキドキしながら、そっと彼女に近づいて顔を覗きこんだら、何と元気な頃と少しも変わらないふっくらとしたキレイな顔で、私の顔をまじまじと見つめている。
その内私の方から"会いたかった"を連発すると、ニコッと可愛い笑顔になった。
そして"早く元気になって家に帰ろうね、又一緒におしゃべりしようね、と言う私に、うん、うん、と小さくうなづき始めた。
面会時間はたったの15分、色々伝えたい事はいっぱいあったのに、涙が溢れてなかなか言葉にならない。
"会えて嬉しい、良かった、早く元気になってね、皆んな待ってるよ"との言葉に、わかった、わかったと言葉にならない笑顔で"うん、うん"と小さくうなづいて反応を返してくれる、その様子をそばで見ていたご主人が、とても嬉しそうに喜んで下さっている。
たった15分はあっと言う間に過ぎて、時間厳守の病院の規則通り病室を後にしたが、思っていた以上に以前と変わらない笑顔の彼女に会えて私は心底ホッとした。
それに、この日までのご家族の心労や苦悩がどれほど大変なものであった事かを痛感した私はこの事を通して、人一人の生命と言うものは自分だけのものではなく、病院の先生方や医療従事者の方々、そして家族や社会のあらゆる人々の恩恵を受けて守られている事を知り、改めて生命の尊さを感じる事が出来た貴重な一日となった。