早朝5時、まだ外は暗い。


風は毎週木曜日、取引先へ早朝に納品へ行く。


「いってきまーす」


先生

「気をつけてね」


眠そうに見送る先生。


配達車にエンジンをかける。さぁ、頑張るぞ。


いつも同じあたりで見る朝日が綺麗で、写真を撮って輝におはよう、と送ったことをふと思い出した。


「輝くんは元気かな…」


ヒルクライムの春夏秋冬を口ずさみながら、日が登って明るくなる空を車の窓越しに眺める風だった。


一件目、到着。


入り口の警備員さん達とはいつもおしゃべりする仲だ。暑い時は暑いですね、寒い時は寒いですね、そんな何気ない会話もなんか嬉しい。


エレベーターで地下二階へ。


「おはようございます」


すれ違う人への挨拶は大事だ。


さくっと納品を無事済ませ、帰りのエレベーターに乗り扉が半分ほど閉まったところへ誰かが乗り込んできた。


「おはよっ!」


「お、お、おはようございます!?」


「何びっくりしてるのー」


「え!?いや!そんなこと無いです!」


「朝ごはん食べようよ!」


「あ!?え!は、はい!」


飛び出るんじゃないかというほど、心臓がバクバクしていた。

全てブロック。何度目だろう。


もう、限界だった。二度と顔も見たくなかった。


もう繰り返さない。


いつも通り、いろんな方向から来る連絡。


その中で拒否を掻い潜って来たメール。それも受信拒否。なのに気になってゴミ箱を見てしまう。


その人が書いているブログには私宛の怨念の困った言葉の数々。


見たくないのに相手の行動を知らない方が怖いと思い、みてしまう。


「家の近くの薬局で待ってる」


「連絡をよこせ」


「何が目的だ?」


そんな内容のメールが数十件。


メールが止んで4時間ほど経った頃、マンションのベランダから駐車場を眺め、その人がいないことを確認し、駐車場について車を一周確認し、乗り込む。


すると、すーっと車で現れたその人の車をみて心臓が壊れそうになった。呼吸も早くなりどうやって逃げよう、それだけしか考えられなかった。


なぜ。


蛇行しながらついてくるその人の車。


手にかいた汗でハンドルは滑りそうになる。


交番が見え、咄嗟に入った。


その人も車を停め、こちらに近づいて窓をノックする。鍵を急いで閉める。さらに手が震えて呼吸も益々早くなる。


警察官が気付いてくれ、ストーカーされてると伝える。その人が交番の中に連れて行かれる。安心して涙が出る。


私のところへまた警察官がくる。


同室は嫌だと伝え、裏から交番へ通される。


涙が止まらず何も説明ができない。


110番で近くの警察署から生活安全課の刑事が到着する。


執拗なメール、電話、待ち伏せ、今までのことを全て話した。


ただ、ストーカーに定義するためには


「もうお別れします、二度と連絡して来ないでください」


と明確に伝えて、出来ればメールとして証拠を残し、それ以降の相手からされたことをストーカー事件として扱える、とのことだった。


今回はトラブルとして処理し、連絡しない、近づかないと誓約書を書いてもらった。


情報は共有されるから、これ以降、どこの警察署、交番へ駆け込んでも、110は通報しても話を聞いてもらえるとのことだった。


少し休んで車で帰宅。見上げた空がとても青かった。やっと解放される。


自由な時間。何にも縛られないで全部自分で決めることができる。


何事もなかったように、スーパーで夕飯の買い物。誰もさっきまでの出来事を知らない。誰にも言わない。


二重人格。


相変わらず、ブログには愛の言葉と憎しみの言葉が綴られている。

「せんぱーい!夕飯いきましょう!」


先輩

「いいよー」


いつ、どんな時も突然の誘いを快く受けてくれる先輩は風にとっていつも心強い存在だ。


先輩

「今日はお寿司でしょ」


「了解でーす」


行きつけのお寿司屋さんがある。女将さんがいつも変わらない笑顔で迎えてくれる。


知らないおじさんたちが、銀座で遊ぶなら女の子がいないとつまらんでしょ、なんで会話をしているこの世界は平和だ。


「バイトさんたちが働きたいけど、土日は忙しいからスタートからラストまでは大変、でも出勤したら長く働きたいって一体どうすればいいなーって感じで」


先輩

「うんうん」


「明日から山のように作らなきゃいけない書類があってもう嫌ですわー」


先輩

「うんうん」


そんな、どうでもいい話をひたすら聞いてくれる先輩は神だ。


新卒で入った会社の元上司。先輩とはたくさん泣いてたくさんの困難を越えて、同志のような存在だ。


先輩

「先生とはどうなのよ?」


「先生は今日は飲み会で遅いので気楽です」


先生と付き合い始めた頃、先輩は本当にいい彼氏が出来て安心だと言ってくれた。離しちゃだめだよって言ってくれた。


先輩にはなんでも話せるが、絶対話せないこともある。