GUYS' NIGHT 久々のマージャン

ワシにはマージャンをやる仲間が何グループかあります。
先週末は地震があって以来久々に、代々木にあるクリスの家に5人集まりました。
ワシの他はアメリカ人とオーストラリア人、ドイツ人とイギリス人の野郎ばかりです。
マージャンをやらない人は昔のおじさんたちが雀荘というところで、
タバコの煙もくもくさせながら、勝ち負け、損得のギャンブルをやっている、
というイメージがある人も多いかも知れません。
そういう日本人だけの仲間もいますが、このグループはどちらかというと、
マージャンをイギリスのコントラクトブリッジのように捉えてるやからで、
古きよきイギリスやその植民地時代にやっていたような優雅さまで漂うかもしれません。
サイドテーブルには各自の飲みものをおき、いろんな話題を運びながらの展開。
もちろん禁煙だし、吸う人間もいません。
カウンターにはクリスが用意してくれた気のきいたつまみが用意されていて、
4人でやるのにあぶれたひとりに頼むと取ってきてくれます。
クリスのBFはマージャンやらないので、日本人同士どこかへ出かけているようです。
外は風が強く寒いのに、クリスの家はしゃれたインテリアと完全防音のマンションで、
いつ行っても季節を感じない不思議な空間です。
ゲームテーブルを囲んでアームレスト付のステキないすに銘銘が納まり、
さいころの目で1番低い数字を出したマーティン(E)が抜け、
ミイヒャ(G)、クリス(Au)、エリック(Us)とワシで囲んで第1戦。
みんな地震後初のミーティングなんで、早速その話題。
その時どこにいたか、どのくらい怖かったか、被災地のこと、原発のこと、家族のこと、
友達のこと、そのほかいろいろ。
抜けているマーティンもわしの後ろに背後霊のように納まり、わしの手を見ながら
いっしょに会話に加わるので、耳元で大声出したり、肩に腕を載せるなと、たまに叱ります。
地震の話題がひとまわりして、各自が自分の手とゲームそのものに集中し始めると、
やっといつもの話題に戻ります。マーティンも後で腹が空いたときのために、
サラダを用意してくれると言って、キッチンへと消えていきました。
みんな、夢中になってくると徐々に各自の本性が現れます。
他のゲームでもそうですが、マージャンでは特にそれが顕著です。
複雑な確立の計算や自分の目指す「手」作りにほとんど意識が奪われてしまうからです。
あがったときの喜びや、どうしても勝ちたい気持ち、悔しさ、がっかり、といった心の波で、
普段はとりつくろって他の人と同じようにしている皮がはがれてしまいます。
クリスは、オーストラリア人ぽいフワフワした話し方とそれなりに優しい物腰。
シニカルにもなれる知性派ですが、自分以外の人の手が見れず、マイペースが出すぎて、
彼が碑を捨てるのをじりじりして待っているマイケル(ミイヒャ)の気持ちに気づきません。
マイケルは普段は温和でまじめな感じですが、ルールや統制を重んじる性格がマージャンに現れます。
でも前の人を急かしたりするのはマナーにかけると感じるのか、早く捨ててとも言えず、
結果イライラしてくるドイツ人。
エリックは物を書く仕事で、ワシが聞く面倒くさい英語に関する質問に、自分の意見まで加えて
詳しく教えてくれるいいやつですが、ジョークは辛らつでもあるアニメオタクのアメリカン。
なのにマージャンになるとスローで、捨て碑に迷ったり、時間がかかります。
きっと自分の中でいろいろな手を考えすぎて、方針が決まらないようです。
マーティンの場合は、ほんとに優しい愛妻家で、絶対怒ったり乱暴な口を聞いたりしない
いわゆるジェントルマンなんですが、マージャンとなると、その仮面もはがれ、負けると
ブラディなんとか、とかいろいろ熱い表現が出てきてしまいます。
アメリカのファ○キンワードみたいなもんです。
普段はここにコリアンアメリカンのグレッグや香港のケンチャンがいたりもします。
そうした普段は出てこないみんなのお国柄や個性をひとり心の中で楽しむワシですが、
マージャンをすることで、堅苦しい挨拶や気遣いが取り払われ、リラックスして話せる、
というのが1番楽しいです。これは会話だけを楽しむパーティーやバーでは出てこない雰囲気です。
最近の経済状況や、仕事や恋人がらみの愚痴や、下ネタまで幅広い話題が次々に飛び出して、
思わずマージャンの手が止まることもあります。
たいていはゲームに集中して、聞いてるんだかどうだかわからない状況になってくるんで、
みなそれほど意識せずにいいたいことをいいたい表現で話します。
普段は英語で通しているマイケルも、畜生、とドイツ語で飛び出したりもしてみんなの笑いを誘い、
クリスがまじめなマーティンをからっかったり、エリックがみんなにどやされたり。
そこでワシはみんなになんと言われてるでしょうか。
いろんな表現が出てきます。
Master(師匠)や Die Hard(しぶとい)は、マージャンを教えた立場としてはまあまあ。
ひどくなると、Cheeky(生意気)、 Poisonous(毒のある)、と言われたりします。
好意をこめて、と信じることにして、怒ったりはしませんが…。
まあ日本語でも英語でも性格は変わりません。
負けず嫌いで、ストレートな物言いは英語の好みにも出るようです。
しまったと思ったときに「バカ!」とよく自分のことでも人のことでも口に出してしまいますが、
ソレが英語の Bugger (ちくしょう)とか、Bother(うるせ~)に聞こえるようで、
やはりみんなに笑われたりしてます。
もちろん被災地も原発もまだまだ状況はよくなってはいないでしょうが、
被害にあわなかったワシらの中でも、とにかく普通に戻って、仕事を続けて稼がなくては、
という雰囲気が必要でした。
このマージャンでまた少し、その元気が出せたような気がした、そんな午前1時の別れでした。