①アクロイド殺人事件 アガサクリスティの心理学  | 英語は度胸とニューヨーク流!

①アクロイド殺人事件 アガサクリスティの心理学 


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アガサ・クリスティの心理学、第1弾は「アクロイド殺人事件」!


その昔、この小説の犯人解きのトリックがフェアかアンフェアかで論争が巻き起こったそうですが、そのトリックのおおもとが、今ではほんとに時代遅れなんで、当時華々しく話題をさらったことでよしとしましょう。


この小説の登場人物で、ポアロを上回る心理学の権威といえるのは、姉弟2人暮らしのおばさんキャロライン。

近所のうわさ好きで、情報通の彼女の独断と偏見による分析は、時にまったくの勘違いもあるけど、鋭い人間観察力はピカ1です。


のっけからある婦人の自殺騒ぎがあり、それについてのコメントが、

「……あの人は神経のかたまりです。圧倒的な衝動から、夫を殺す気になったので、それというのも、あの人はただどんな苦しみでも、我慢することのできない人だったからです。………同情する気にもなりますよ」

と、夫を殺した動機から性格分析まであっという間にやっつけます。


これを聞いた弟の心の中での分析が、また振るっています。

[ファラーズ夫人が生きている間に、キャロラインが同情する気になったとは思えない。もはやパリ仕立ての衣装を着ることもできないところへ行ってしまったので、同情とか理解とかいう優しい気持ちになったのである。]


コミカルな姉弟のやり取りの中に、人間性の真実がちりばめられていて絶妙です。


この場合の同情は sympathy
自分の側から相手を見て、あんなふうになってしまってかわいそうだ、という見方。

微妙に違うのが共感で、 empathy
相手の身になって考えるけれど、自分は巻き込まれない、という理解。

キャロラインの場合は夫殺しに批判的精神を持ちつつ、ひどい夫を持ったその婦人に同情しているので「共感」ですね。


でも、前は鼻持ちならなかった金持ち婦人に対して、死んだことで同情する気になる彼女の心理変化は、今でも周りでよく見る光景です。

嫉妬の対象が自分と同等、または下の立場になることで寛容さが生まれる、というのはどの世界でも普通にある人間の弱さで、自己保存本能のひとつですよね。


この本の中盤では、ポアロが犯人の心理をプロファイリングする箇所があり、芝居で言えば「中詰め」、長くなるので紹介しませんが、それを聞いている犯人の恐怖がよく伝わります。


もうひとつ、クリスティは「女の直感 = intuition」に関しての分析をよく盛り込みます。
ここではポアロがそれを代弁しています。


女というものは、いきあたりばったりに何か考え出す―しかもそれが奇跡的に的中する。ところがほんとは奇跡でも何でもないんですね。自分では知らないまま、潜在意識的にたくさんの細かいことを観察しているのです。その潜在意識の働きが、こうした小さなことをつなぎ合わせる―その結果が、いわゆる直感なのです。」


潜在意識 = subconscious awareness

とは海面下の深くまで続く氷山のようなもので、自分たちが普段認識できる情報の何十倍もあるといわれます。へんてこな夢の中で整理されたり、癖を生み出したり、こうした直感や予感となって現れます。
神秘的にとらえられがちなこうしたことを分析されると、確かになるほどと思います。


この用語で思い出した失敗談をひとつ。

昔、「意識しないでよく~する」という言葉を使うときに、
Doing ~ without consciousness. と言って、笑われました。
意識 = consciousness と辞書で見たからですが、これではほとんど「意識不明」の状態。

夢遊病じゃあるまいし、ですよね。
(誤解がないのは、without awareness, without being aware of ~

日本語で「意識する」は英語では「自覚する」となることが多いです。

また、「意識しないでがんばって」のようなときは「緊張しないで」という英語になります。


では今回の要点を…

① 人は自分より恵まれていると思える人にだけ嫉妬し、意地悪になる。
   その人が自分より堕ちたと思えたときから同情できるようになる。
   同情共感は、自分が巻き込まれるか否かの違いである。


② 直感予感は、霊的なものというよりは、潜在意識で記憶されたデータの顕れである。
   途方もない夢も現実的な夢も、潜在意識の広範なデータを整理するのに役立っている。



英語は度胸と愛嬌!


この本では、ポアロの1度引退した後の田舎の暮らしぶりが紹介されています。

「特大のかぼちゃを作っている」と書いてあるのですが、

それが vegetable marrow というナタウリ

ハロウィンなどで使われる黄色いスクォッシュの緑色版のようなものです。

どちらも観賞用で食べたりはしません。


さて、肝心のキャロラインは、この作品の舞台化の際、登場人物からはずされてしまい、

クリスティはがっかりしたとか。
しかし彼女の他にもアクロイド殺人事件は心理学的アプローチの宝庫です。
そんな風に読むとコロンボと同じように、犯人を知ってて読む面白さが倍増なんで、

ぜひ試してみてください。


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