「コンバンワ・・。」
「ハイ。どなた?」
「オオカミです。」
「オオカミ?オオカミなんて、僕の知り合いにはイナイよ。」
「ワタシを忘れたの?」
「忘れたって?」
「そう。あの日、あなたはワタシに声をかけてきたでしょ?」
「声を?それは僕が酔っ払っていたあの雪の降る晩のことかな?それなら、僕の独り言かもしれないし、あるいは、気まぐれにそうしたまでさ。忘れておくれ。」
「イイエ。それは違うわ。」
「チガウ?」
「そう。あなたはワタシに言ったわ。コレはタワゴトでも気まぐれでもナイ。僕はキミを愛してる、って。」
「そんなコトを言った覚えはナイよ。たとえそう聞こえたとしても、それは雪の降る寒い夜のコト。夢うつつ、虚ろな心が吐いたため息の音。いいから帰っておくれ。オオカミなんて不吉で剣呑で僕には持て余しだからね。」
「そんなツレないコトを言うモノじゃないわ。アレは確かに言葉だった。オオカミにだって、情もあれば、人間の愛だって理解できるのよ。仕留めたエモノだって、いつまでも苦しめたりしないモノよ。」
「僕はキミのエモノじゃないし、人間なのだしオオカミとは違うんだ。いくら何でも酔っ払ってオオカミなんかに声はかけたりはしないよ。」
「・・・・ねぇ、あなたはワタシが本当にオオカミだと思っているの?ドアも開けずに、ワタシを一目も見ずに、どうしてワタシを拒否できるの?」
「・・・・・・・。」
「ねぇ、ドアを開けて。ワタシを見たくはない?」
こうして迷える子羊は、今日も屠られ、オオカミの餌食となる。
メデタシ、メデタシ。。。