三日月が照らし出す草原を、深海魚のような淡い光の列が西へ流れていく。
それは、遠い異国へと向かう夜汽車の灯りである。
風が月光に照らされた草原の草々をキラキラと光らせて吹き渡っていく。
それは天と一体となって、銀河の中を流れる水のさざめきのように、どこまでも続いている。
夜汽車が国境に近づく。
漆黒の闇に一直線に引かれた歴史の境界が目前に迫ってくる。
国境を跨ぐその瞬間、汽笛が長く鳴らされる。
乗客たちは立ち上がり、後ろを振り向き頭を垂れる。
そして口々に愛する人の名前を、あるいは神への祈りを口々に唱える。
それは、故国への惜別の情と、まだ見ぬ異国への憧憬と不安の入り混じったざわめきとなって、後方へと流れ去っていく。
国境を夜汽車が越えていく。
その軌道はどこまでも続いて、やがて草原の中へ消えていく。
後には、天上の星々と地上の風の織り成す密やかな世界だけが残る。
その中を白くたなびく煙が、人々の祈りとなって天へと昇っていく。
時間を超えてそれは繰り返され、今もそして未来も変わる事はない。
そんなふうに人間は故郷の郷愁と哀愁をここに残し、未知の現実へと身を委ねていく。