宇宙は、膨張している。

20世紀の初頭、A・アインシュタインが予言し、E・ハッブルが発見した。

世界は無限に広がっていくのだから、それに追いつくための手段として、蒸気機関車に自動車、飛行機やロケットなどが考案された。

伝達手段も手紙じゃもどかしいので、新たに電磁波のチカラを借りた方法が講じられた。情報は瞬時に到達し、次の瞬間には全世界へ発信されるようになった。

そして、その行間を埋めるように人間も増え出した。

 

科学の発達は、人類にとっての福音である。
大きなノッポの古時計がノンキに時を刻んでいた19世紀、人々はそう固く信じていた。

しかし、次の100年間でそれは覆ってしまった。
人間が増えると諍い事が多くなり、絶え間なく戦争が繰り返された。
それは民族や宗教、思想や文明と言った大義の旗の元に行われたが、その本質は「無限なる”膨張”の踏破」と言う野放図な現実認識にあり、それが大量殺戮や大規模破壊をもたらした。戦争の度に技術革新が行われ、モノの大量生産に大量消費、その物的幸福を享受しつつ、実は自分たちもその仲間になってしまったことに、人間は気づかぬままだった。
 

20世紀とはそんな時代だった。

21世紀と言う夢の未来を迎えた今日、宇宙は加速度的に拡大し、謎ばかりを残しながら人間の思考野から遠ざかりつつある。その宇宙の深遠に向かって、昨今は天文学者でさえ途方に暮れる日々を送ると聞く。

 

今も絶え間なく膨大なモノが生まれ廃棄されていく。同時にベルトリンクのように戦争は続き、千年の都は灰燼に帰すと共に、多くの人命が失われていく。

 

それでも宇宙の膨張は止まらない。
 

 

僕たちが別れ行く理由が、それ以外に何があると言うのだろう。

 

それがわからないまま、今僕は、きみの背中を見つめている。