たった8mm幅のシングルエイトフィルムの中に、その時のまだ肌寒い空気の匂いさえ閉じ込めて、無邪気にきみは白い息を吐いている。

高校の卒業が間近に迫った3月初め、余った時間の有効利用のために、余ったフィルムを映研の部室からタダでいただいて、学校の近くにあった公園の辺りを歩きながら、僕達は他愛もなく自分達を記録し合ったのだった。

振り向くたびに、茶色がかった短いボブの髪が揺れ、大きな瞳が早春の陽に輝く。
当時はあまり意識したコトはなかったけれど、きみは確かに可愛い女の子だ。

その唇が動くたびに、僕はその内容を読み取ろうとしたけれど、きみが当時の僕に何を語りかけていたのか、今の僕にはまったく思い出せない。

けれど、残されたわずかな時間の中で、何かを探し出そうとしていたように思う。

それはもうすぐ別れ行く親しい友人同士の寂しさの共有だったのか、それともその先の恋とか愛とかの感情の在り処をお互いの気持ちの中に見出そうとしていたのだろうか。

あまりにも淡い感情と遠い彼方の記憶と粗くピントの甘い8ミリカメラの映像の中からは、はっきりと読み解くコトはできない…。


突然、今はすっかり変わってしまった街並みと青空を背景に、校舎の屋上の冊にもたれかかるきみが映し出された。

 

「ねぇ、またきみはへこんでるのかい?相変わらずだねぇ・・・。」

きみの声が聞こえたような気がした。

生意気で、どこか映画のセリフのような言い回しで。


「ウルサイ・・・。」


僕はそう答えた。

白いスクリーンの中の光と影のきみは、あの頃のまま今の僕に微笑みかけていた。

 

ーM・Yに贈るー