【リクエスト】優しい罪 03 | よりみち小部屋。(倉庫)

よりみち小部屋。(倉庫)

『よりみち小部屋。』の作品(一部)倉庫。

5555HIT時に、美音さまから頂いたリクエストです。
魔人様のリク罠159、「優しい罪」。
蓮さん、キョーコさん、場面ごとに違う視点で展開します。


次はキョーコさん。

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優しい罪 03


右よし!左よし!
確かめる必要はない気はするけど、上下もよし!

廊下の曲がり角からエレベーターホールの様子を伺って。
絶対に出会ってはならない人物の姿がないことを念入りに確認する。

スケジュールは事前に確認してあるし、こちらのスケジュールも理由をつけてあちらに伝えないようにと椹さんにお願いしてある。
大丈夫だとは思うけれど、いつ変更があるとも限らない仕事だもの。

次は「やっぱきまぐれロック」の収録。
ラブミー部の仕事も早めに終わらせることができたし、事務所にいるのが一番危険なのよね!
とっとと移動してしまうのが得策だわ!

私は廊下からエレベーターホールに出ると、不自然ではない程度の速さで横切って、事務所をあとにした。



「あっ!京子ちゃん。今日はずいぶん早いんだね」
「おはようございます、光さん」

きまぐれ~の収録スタジオに入るとすぐ、司会を務める1人、ブリッジロックの光さんに出会った。
いつもにこにこ、気さくに話しかけてくれる素敵なお兄さん的存在。

「どうしたの?収録時間まで余裕があるんじゃないの?」
「あ。前の仕事が少し早めに終わりましたし、坊のお料理コーナーの最終チェックもしておきたいな、って思いまして」
「へー。相変わらず京子ちゃんは熱心だよね」
「いえいえ!そんなことは!!……光さんたちは、打ち合わせですか?」
「うん。慎一と雄生はもう入ってるんだけど、俺だけ遅れちゃってね」

他愛もない会話をしながら、光さんと私は並んで歩く。
けれど、思わぬところで爆弾が投下される。

「でもさっきはどうしたの?入り口でずいぶんきょろきょろしてたけど?」
「あ……いえ、ちょっと」

局に入る前にも周りをチェックしていたところを見られていたなんて!
焦る私とは裏腹に、光さんは心配そうに覗き込んでくれる。

「何か探し物?それともまさかファンにつけられてたとか?」
「あ!いえ!そんなことはありません」
「そう?」
「はい」

まさか「会いたくない人がいるんです」なんて言うわけにもいかないし!
私が必死に誤魔化すと、光さんはちょっと考え込んだ様子を見せる。

「何もないならいいけど……もし困ったことがあったら、言ってね?」
「ありがとうございます」

疑われはしたもののそれ以上は追及されなかったことに、私はこっそりと安堵の息を吐く。
よかった、気づかれなくて。
こんなとき、お芝居やっててよかったな、って思うのよね!

今度は収録番組について話しているうちに、エレベーター前に着く。
「坊の控室は地下だったよね?俺たちは二階で打ち合わせなんだ」
「はい。では、後程よろしくお願いしますね」
「うん」

エレベーターに乗る光さんを見送ったあと、ここから一つおりるだけなのだからと階段の方に足を向けた途端。
うっかりと見てしまった。

掲示板を埋めるように貼られてるのは、もうすぐ放送開始になる敦賀さんのドラマのポスター。

……見ないようにしてたのに。

階段に向かう足取りは重くなる。


すぐそばの階段には人気はなくて。こつん、こつんと私の足音だけが響く。
一段降りるたびに、私の気持ちもゆったりと下降していく。
それと同時に、胸にどす黒くて重いものがゆったりと広がっていく。

だめよ……まだ、今は。

重い足を何とか動かして、「坊 控室」までたどり着く。
ドアを閉めるときっちりと鍵をかけて……部屋の奥に置かれている坊の前に正座する。

「今日も無事に仕事を全う出来ます様に、よろしくお願いします」

いつもの挨拶をして、顔を上げるつもりが。
上げることができず、両手で顔を覆ってそのまま床に伏せる。

「ふ……うっ」

頬を伝う涙も、漏れる声も止められない。
誰もいない静かな部屋に響く自分の嗚咽が妙に耳につく。
耳をふさぎたくても、ふさぐことができない。
それが今の私の状況そのものに思えて、さらに涙があふれてくる。


2週間前、私はかねてから計画していた通り敦賀さんに告白をして、報われない恋に決別した。
……はずだった。

私が告白すれば、敦賀さんが困るのは分かっていた。
こんな色気もないただの後輩に告白されるなんて迷惑以外の何でもないなんてことは承知の上。
そしてきっと優しい敦賀さんのことだから、傷つけないように優しい言葉でやんわりと諭すように私の気持ちを押し返してくれるだろうと。
そう、思っていた。

けれどあの人は、思ってもみなかった切り返しをしてきたのよ。
「俺も・・・・・・・・最上さんのことが好きだよ」だなんて。
なんて残酷な切り返しなの!

貴方と私の「好き」は、違うのに。
「両想いみたいですね」って言った私の強がりにも、顔色一つ変えずに応える貴方は、罪作りなひと。

「ふ…えっ…っく」
告白の言葉は「好きでした」。
あえて過去形を使って、無理に過去のものにしたというのに。
想いはちっとも過去のものにできていない。

「せっかく……がんばったのになぁ……」

この二週間、絶対会わないように細心の注意を払った。
少しでも撮影が重なりそうなら、早めに移動したりわざと遠回りをしてみたり。
万が一スケジュールを確認されるようなことがあった場合でも、絶対に教えないように、教える場合は少しずれた時間のものを教えるように、と椹さんにお願いしたのに。
毎日くれる電話には出ず、留守電のメッセージも聞かない。
でも無視したままでは失礼に当たるから、仕事をしている時間を狙って電話をするようにして。
ついさっきも着信があったけれど、応答はしなかった。おそらく、先ほど入れた留守電のメッセージを聞いてかけなおしてくれたのだとは分かっていたけれど。
そうやって、極力接触を避けてきたのに。

「ポスター1枚で、こうなっちゃうんだもん……」
何が後ろは振り返らない、よ。
ラブミー部卒業に向けて前進あるのみ、よ。
敦賀さんにとらわれて、立ち止まっている……いえ、ただ逃げているだけ。

「もう、やだ……」
どうしていいか分からない。
けれどもうすぐ撮影が迫る今は敦賀さんのことばかり考えてはいられない。
ぐいぐいと涙をぬぐって、ぱあんと両頬を叩いて気合を入れる。
「とりあえずは仕事!」

気持ちを切りかえた私は、気づかないふりをしていた。
いつまでもあの人から逃げられるわけがない、ということに。

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く、暗い……
どうしてこうなったと自問自答中でござる……