sunny様の開催されている素敵な「夏祭り企画」にまたまたぺいぺら、参加させていただきましたーー!
どこかで「次回はイラストを」とかほざいてた気がしますが、流石にそれは無謀すぎだったのでお話での参加です。
sunny様の素敵企画会場は下のバナーから!
お話はいつか描きたい、と思っていた舞台。
キョーコさんが小さいころのお話です。
こんなエピソードもあってもいいんじゃない、という発想からです。
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Omatsuri~不思議の夜~
リズミカルな太鼓と、軽やかな笛。
その音は大きくなったり、小さくなったり。
遠くなったり、近くなったり。
闇夜に、鳴り響く。
「いない……」
待ち合わせ場所だったはずの神社には人影は一つもない。
元々は子どもの遊び場と化しているだけの、人々から忘れ去られたようなたたずまいの神社。
緑の木々に囲まれたそこは祭り会場から少し離れており、太鼓や笛の音がわずかに聞こえるばかり。
ひっそりと誰もいない社の前に、キョーコは1人立ち尽くした。
(せっかくショーちゃんといっしょに来られたのに……)
キョーコは浴衣の端をちょい、と摘まむ。
赤をベースにした布地にトンボや花がちりばめられた浴衣は、ショータローの母親が用意して着つけてくれたものだ。
「祭りを楽しんでおいで」
そう言ってお小遣いも渡してくれて。
青をベースにした幾何学模様の入った浴衣を着つけてもらったショータローとともに見送られたのが30分ほど前のこと。
(ショーちゃんとおまつり!)
浮かれるキョーコとは対照に、面倒くさそうな顔をしていたショータロー。
キョーコはそれに気づいていながらも、大好きなショータローと祭りに行けることに浮かれていた。
明るく照らされた祭り会場までの道には、数々の屋台が並び、老若男女さまざまな人でにぎわっている。
キョーコとショータローも2人で、そこに紛れていた。
かき氷を食べて、金魚すくいをして……
「じゃあ次は……」
キョーコがもっとショータローと祭りを楽しもうと思っていた時に、同級生の女の子たちと出会ったのだ。
「なぁキョーコ、りんごあめ食いたがってたろ?あっちに店が出てたから、買ってこいよ」
それまでキョーコが話しかけてもそっけない返事をしていたショータローが、笑顔でキョーコに話しかけてきた。
キョーコはそれだけで、舞い上がってしまう。
「いいの?ショーちゃん」
「行って来いよ。いつもの神社で待ちあわせな」
「うんっ!」
そう言って別れ、キョーコはりんごあめを買って大急ぎで神社に向かったのだが。
ショータローの姿はそこになかったのだった。
(きっと、人ごみにまきこまれちゃってなかなか来られないんだよね)
キョーコは神社の階段に座って、りんごあめをほおばる。
甘いはずの飴が、何だか味気ない。
りんごあめをひとくち飲み込むたびに、キョーコの胸には少しずつ不安が募っていく。
(ショーちゃん、おそいなぁ)
(待ち合わせ、って言ったのに)
(どこに行っちゃったんだろう)
大きいのは食べきれないからと、キョーコは小さい姫りんごを使ったりんごあめを買った。
小さいゆえにあっという間になくなってしまったりんごあめ。
残った棒を見つめながら、キョーコはため息をついた。
ふと視線を横に移すと、りんごあめを食べる間に不用意に揺らしてはいけないと思って木の枝にひっかけておいた金魚を入れたビニル袋が視界に入った。
ビニル袋の中で、一匹でひらひらと泳ぐ赤い金魚。その金魚の姿が、赤い浴衣をまとったキョーコ自身の姿と重なる。
ひらひらと水に揺れる尾と、キョーコの背でひらひらと翻る帯。
水槽では大勢で泳いでいたのに、一匹だけ取り出された金魚。
華やかな祭り会場から一人はぐれてしまっているキョーコ。
(まさかショーちゃん、わざと……)
女の子たちと出会ってから、態度を変えたショータロー。
ひょっとすると元々彼女たちと約束があったのかもしれない。
キョーコの胸に不安が押し寄せる。立ち上がって金魚を枝から外し、祭り会場に戻ろうとしたその時……
キョーコの後方が、ぱあっと明るくなる。
続いて、どぉん、という大きな音が響く。
「花火……始まっちゃった」
キョーコは振り返ってそこに立ち尽くす。
空には次々と花火が上がる。
赤や青の細い光が次々と空に昇っては、ぱあっと広がって消えていく。
色とりどりの光が四方八方に飛び散っていくもの、オレンジの光がばらばらと音を立ててはじけていくもの、大輪を描くもの。
「きれい……」
空に散っていくさまざまな様相を見せる火の花に、キョーコは見とれていた。
ほどなくして、光も音も急に消えてしまった。笛や太鼓の音もいつの間にか聞こえなくなっていた。
急に訪れた静寂にキョーコは我に返る。
「あ……」
1人であることを思い出し、さみしさが去来する。
悲しみを吸い取ってくれるお守りの石の存在を思い出したのだが、祭り会場で失くしてはいけないと部屋に置いてきたことに気付き、さみしさがさらに増してしまう。
「ショーちゃん、早く、来て……」
(ひとりは、いや!)
ふるふると体が小刻みに震えて、じわりと涙が浮かんでくる。
小さなキョーコの声にこたえるものは、何もない。
「ふぇ……」
膨れ上がった涙がいよいよ頬を伝おうとしたとき。
ふっと、キョーコの視界がやわらかい何かにそっと閉ざされた。
「え……?」
キョーコは驚いて目をふさいだものに触れる。温かなそれは人の手だ。その直後に、手はゆっくりと離れていく。
「だぁれ?」
振り返った先にいたのは、白いきつねのお面で顔を隠した背の高い少年。
キョーコが少年だと理解できたのは、彼が白を基調としたシンプルな男物の浴衣をまとっていたからというだけではない。
顔は見えないが、彼がキョーコのよく知る人物ととても似た背格好ををしていたからだった。
「あなたはだれ?」
つい先日「もう会えなくなる」と言われて別れたはずの少年。
キョーコが震える声で尋ねると、少年はかぶっていたお面を少しだけずらす。そこから見えたのは、キョーコのよく知る日に透けてキラキラと輝く金の髪。
闇夜の今それが光り輝くことはなかったが、さらりと流れるその髪はキョーコがよく知る彼のもので間違いはない。
「コーン……?」
訪ねるキョーコの声に少年は応えない。けれどすっと立てた人差し指を自分の唇に寄せる。「内緒だよ」と言わんばかりに。
自分のよく知る少年だと確信しキョーコがそれに黙ってうなずくと、少年はすっと手を差し出す。キョーコはそっとその手を取った。
(コーン、どうして……?もう会えない、って言ってたのに)
手をつないでゆっくりと歩きだす少年の背を追いながら、キョーコは心の中で尋ねる。
繋がった手の温かさは確かなものなのに、その疑問を口にしてしまったらそのぬくもりが幻になってしまいそうで、怖かった。
(そうだ……お祭りには不思議なことが起こるって、誰かが言ってたっけ)
――お祭りはたくさん人が集まるけれどね。
その賑わいに惹かれて、人じゃないものもたくさん集まってくるんだって――
人じゃないものと言われて、想像したのはお化けや死んだ人の霊だった。
(でも妖精だって、人じゃないよね……)
一歩先で揺れるさらさらとした金の髪を眺めながら、キョーコはぼんやりと考える。
(ひょっとして……今日は妖精の国への抜け道ができちゃったのかもしれない)
そこを通ってコーンはキョーコに会いに来てくれたのかもしれない。泣きそうになっていたキョーコの元へ。
(ありがとう、コーン)
つないだ手をきゅうと強く握ると、同じように握り返されてそれが現実だと実感させてくれる。
キョーコは少年につれられるまま歩いたのだが、社の裏手に回ろうとしていることに気付いて、慌てて足を止める。
「ま、まってコーン」
キョーコが呼びかけると、少年は振り返る。
「私、ショーちゃんと待ち合わせしてるの。あんまり遠くに行っちゃったら、ショーちゃんが気づかないかもしれないの」
暗闇でも少年の口元がゆがめられたことが分かる。ただ口元以外はきつねのお面に隠されているため、表情が読めず、その意味するところはキョーコには分からなかった。
「コーン?」
キョーコが呼びかけると少年は少し考えこんだ様子を見せた後、再びキョーコの手を引いて神社の正面へと戻る。
そして、くいっと社の横手を指差した。
「あっち?あっちに行くの?」
少年の指差した先は草木が生い茂っていたが、人が踏み歩いた跡がある。少年は小さく頷き、もう一度そちらを指差した。
(あそこなら、ショーちゃんが来たら分かるよね)
キョーコがこっくりとうなずくと、少年はまたキョーコの手を引いてしげみへと入る。
少年はキョーコを先導しながら、さりげなく伸びている下草を踏み分けたり伸びた枝を折り取ったりして通路を確保する。
短い草木のトンネルを抜けるとすぐ、拓けた場所に出た。
元々少し高台に位置する神社。草木がなくなると街並みが広く見渡せるし、空も広く見える。
「うわぁ……」
何度も神社に遊びに来ているがこんな場所には気づかなかった。
広がる景色をもっと見たくてキョーコは少年より一歩先に行こうとするが、強く手をひかれた。
「え?」
キョーコは足を止めて少年を見ると、少し前方の地面を指差している。そこは緩やかながら崖になっている。
「あんまりあっちに行っちゃダメってことなのね」
少年は黙ってうなずく。その時、ぱあっとまた空に火の花が咲いた。続いて、どーん、という大きな音。
「あ、花火……」
先ほど途絶えたのは、終わりではなく次の準備までの中休み。
再開された花火は、先ほどよりも短い間隔でどんどん打ち上げられて次々と空に鮮やかな光の花を描く。
「わああきれい!きれいだね、コーン!」
つないだ手を離して空を指差して微笑みかければ、お面の下から見えている少年の口元も弧を描く。
さっきはひとりだったけれど、今は隣に微笑みかければ微笑み返してくれる存在がいる。
キョーコがちらりととなりを覗き見れば、少年はお面を後方にずらして空を見ている。
(なんだか、くすぐったい)
ふふっと小さな笑いをもらしてから、キョーコは空に咲く火の花に魅入ったのだった。
最後に一つ、ひときわ大輪の花を咲かせて。
花火は終了した。
残るのは暗い空に残るかすかな光の影と、風に流れてくる火薬のにおいのみ。
華やかな花火は続いている間は楽しいが、終わると物寂しさが一気に襲ってくる。
「コーン、終わっちゃったね」
キョーコが振り返ると、少年の視線はすでに空にはなく、後方の神社の方にあった。
「コーン?」
少年は後方にずらしていたお面を元の口元だけが見える位置に戻し、キョーコに向き直った。
花火を見ている間にさりげなくキョーコから取り上げて預かっていた金魚の入った袋をキョーコに渡す。
「コーン……どうかしたの?」
キョーコが尋ねると、少年はきゅっとキョーコの手を握る。
そして……
『ば い ば い』
声にはならない声。口の形でそれだけをキョーコに告げると……
ぱっと手を離し、身をひるがえすとそのまましげみの中に飛び込んで姿を消してしまった。
「コーン!!」
キョーコは慌てて後を追おうとしたが……一瞬出遅れたのが災いしたのか、しげみはもう揺らめきもせず元の静寂を取り戻していた。
「コーン……帰っちゃったの……?」
キョーコの問いかける声に、答えるものはひゅうと吹いた風の音と、かすかに聞こえる虫の声だった。
夢のような時間だった。夢かと思うような時間だった。
けれども、手のひらにはぬくもりが残っている気がする。
手を握り締め、そのぬくもりをもう一度確かめようとキョーコが目を閉じたその時。
遠くの方から、キョーコを呼ぶ声がした。
「キョーコ!キョーコ!!いねぇのか!」
「あ!ショーちゃん!」
少年と一緒に花火を見るのに夢中で、ショータローとの待ち合わせのことをすっかり忘れてしまっていた。
キョーコは慌てて神社に戻る。
「ショーちゃん!」
「あぁ?キョーコ、そんなところにいやがったのか」
キョーコの姿を見つけるなり、不機嫌なのを隠そうともしないショータロー。
キョーコを散々待たせたということは、頭にないらしい。
「ったく。こんなところにいやがったのかよ。花火、おわっちまっただろ。とっとと帰るぞ」
ショータローはキョーコを気遣うことなどなく踵を返すと、すたすたと神社から去っていく。
「あっ!待ってよショーちゃん!」
キョーコは慌ててショータローの後を追いかけたが……その途中でぴたりと足を止めて、少年が姿を消したしげみを見つめる。
(ありがとう、来てくれて。楽しかったよ)
口の形だけでそう告げてぺこりと頭を下げると、キョーコは再びショータローの後を追ったのだった。
―― Omatsuri
不思議の夜には
だれもしらない
抜け道が
あるかもしれない ――
【END】
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新居昭乃さんの「OMATSURI」という楽曲の世界が大好きで、そのイメージイラストをずっと描きたかったのです。
蓮キョ(というかコーンとちびキョーコさん)ならいける!と思ってラフを描いたものの。
案の定塗りの段階でへたれました。
でも蓮キョで形にはしてみたかったので、お話にしてみました。
ちなみにラフはこれ。
いずれにしても楽曲の魅力をつぶしちゃっているような気がしてならないけど。
夏の終わりに何とか仕上げることができて満足です。
ええ、気分は夏休みの宿題を必死で仕上げる小学生でしたとも……
実はこの続きがあったりなかったり。
ショータローサイドも書いてみたい。