背後 橋本 花恋
萌奈(もな) 高1。
「花梨(かりん)と同じクラスになれるかな?」
今日は、まさしく入学式だ。
萌奈が言っているのは、クラス替えのことである。
クラスは全部で7組ある。
つまり、七分の一の確率で、花梨と同じクラスになれるのだ。
萌奈は、持ち物チェックをして、家の戸に手を掛けると、
「いってきまぁ~す」
と、声を響かせた。
今日は母親は、用があって家にいない。
父親は会社に出張中というところだ。
「仕方ないよね…お父さんの休みが火曜日なんだもん。
大事な仕事だから代休も取れないし…。」
ぶつぶつ独り言を言いながら、交差点の壁にもたれた。
「萌奈!おっはよ~ぅ。」
花梨が息を荒くして走ってきた。
萌奈は、腕時計を見てにっこり笑った。
「この時間なら、まだ早歩きで間に合うわ。
いこう、花梨!」
途中、自販機でミルクティーを買っていった。
チャイムが鳴ったころには、体育館に到着出来ていた。
二人は、校長が話している間、ずっと朝の話で内心盛り上がっていた。
「ヤバイよね、2分前だったよ!」
花梨が、うずうずして、今にも大声を出しそうだ。
萌奈がリアクションを控えた。
「うん…もう少し静かにしときなよ。マジで注意されるよ。」
すると、萌絵の隣の茶髪でショートボブの女子が、注意した。
「あんたたちさっきからぶつくさうっさい!
喋りに来たんだったら帰れば?
確か、花梨とか言ったよね。あんた一番うるさい!」
花梨は、耳をふさぎながら少し抑えた声でこういった。
「あんたって長話系?
私より十分うるさい。」
萌奈は、花梨と席を交代し、ずっと黙っていた。
校長の話が終わると、クラス決めだ。
ところが、萌奈は4組、花梨は5組になってしまった。
萌奈は、花梨の手を握って元気いっぱいで喋った。
「花梨、隣のクラスだっただけで良かったって!
1組と6組だったら花梨に会いに行くのに走らなきゃいけなくなるもんね?
もう来年に期待しようか、花梨。」
花梨は、自分の頭を軽くたたいて「そうだよね!」
と、笑いながら言った。
入学式は終わった。
花梨とは、交差点で別れた。
萌奈は、花梨と別れると、猛ダッシュで家に帰った。
「ただいま!お昼ご飯作らなきゃ。野菜炒めにしよう!」
フーフーと息を荒くして、火をつけた
ニンジン・ピーマン・キャベツなどをフライパンにぶち込み、
フライ返しで炒め始めた。
萌奈のリビングには、良い香りの煙がもくもくと上がった。
「しまった、換気扇忘れてた!」
換気扇のスイッチをすぐさま入れると、煙は収まった。
「お母さんって、面倒なんだなー。」
そんなことを言ってる間に、野菜は炒められた。
食器棚から食器を出した。
「いただきま…」
言いかけた時、電話機のベルが鳴った。
萌奈は手を伸ばして受話器を取った。
「もしもし、原田ですが あ、花梨か、な~んだ。」
受話器からわずかに会話が漏れる。
「ゴメン…カバンの中に萌奈の筆箱入っててね?
間違って持って帰っちゃったみたいなんだけど…。」
萌奈は、ため息をついて、少し怒り気味で言った。
「いいよ別に。月曜渡して!
花梨の性格だとそういう事しょっちゅう有ったじゃないの」
花梨の控えた声が萌奈の耳に飛び込んでくる。
「ゴメンね、萌奈。じゃあバイバ…」
聞こえかけた時には、受話器は元の場所に叩き付けていた。
「何今頃控えた声してんのよ。これだから花梨は…
もう明日には一人暮らしの引っ越しだし、もういいや。」
月曜日は、交差点の自販機でジャスミンティー✿をマイバックに軽く投げ入れた。
すると、後ろに気配を感じた。
「? だれ?後ろに誰かいる?」
と、正面を向きながら言った。
「えっと…私!かりんだけど?この筆箱ね、返さなきゃって(ノ´∀`*)
引っ越しの準備手伝うように母親に言われたから手伝う~♪」
萌奈はくすっと笑って怒りを収め、優しく答えた。
「じゃあ、帽子とバッグを一か所にまとめてね。
私も、それ手伝うから。」
引っ越しは終了した。
萌奈の引っ越した部屋は、全体的に木の天井と壁が白い壁紙のシンプルな家だ。
萌奈は、その家で第一声を上げた。
「無駄に豪華な家。もう一人すんじゃっていいのに~~ねっ、花梨!」
かりんはもう家に帰ったらしい。
ソファの上にゆっくりと腰かけた。
ごろりと横になると、人間の皮膚感のあるものが手に触れた気がした。
「何…これ…。誰…?か、花梨でしょ!そろそろ帰りなよ。」
すると、その細い手のようなもので萌奈の指にゆるく絡めた。
「ひ…誰、誰っっ!出てってよ!あぁ…きっと、気がしただけなんだ…怖ー…。」
萌奈は、マイバッグからジャスミンティーを出し、
「気分転換に買い物いこっと」
と言って玄関棚にあるカギを手に取った。
すると、首を絞められた。
ボブへアの女が片目でこちらを見ながら首を絞めている。
「お前…お前だろ…!よくも私を轢いてくれたね…!あの…あの茶色い車で…!」
「何言ってんのよ!私はまだ車なんて持ってない!きっと前の家の持ち主よ!」
そう懸命に叫ぶと、女はどこかへ消えていった。
すぐ隣のお寺におはらいをしてもらいにいった。
「きっとひき逃げ犯がこの家に住んでいたんですね。
女が襲おうとした予定日に偶然あなたがこの家に引っ越してしまったのですかねぇ…」
真剣な目つきで家におはらいをしてくださった。
それからというもの、もう家に女が現れることはなくなった。