かかるほどに、宵内過ぎて、子(ね)の時ばかりに、家の辺り昼の明(あか)さにも過ぎて光りわたり、望月の明さを十あはせたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。大空より、人、雲に乗りており来て、土より五尺ばかりあがりたるほどに、立ちつらねたり。これを見て、内外(うちと)なる人の心ども、物におそはるるやうにて、あひ戦はむ心もなかりけり。
からうじて思
ひ起こして、弓矢
をとり立てむとすれども、手
に力もなくなりて、なえかかりたり。中に心さかしき者、念じて射むとすれども、ほかざまへ行き
ければ、あれも戦はで、心地ただしれにしれて、まもりあへり。立てる人どもは、装束(しやうぞく)の清らなること、ものにも似ず。飛ぶ車
一つ具したり。羅蓋
(らがい)さしたり。
