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そういえば『震災後文学論』(青土社)を二〇一三年暮れに上梓(じょうし)した文学研究者、木村朗子(さえこ)が『新潮』に「『震災後文学論』の あとで」という論考を発表し、その後の展開を追っている。そこで木村は、震災直後から原発事故と放射性物質の汚染被害について自由に議論することが許され ていなかったことをあらためて強調しているが、優れた文学的表現はむしろ禁忌を破ろうとする形で生まれてくるものだということを、小林エリカの作品は思い 出させてくれた。


 山内マリ子の中編「悪夢じゃなかった?」(『群像』)は、小林の作品に比べると遥(はる)かにシンプルで軽いが、面白く、それなりの手応 えもあ る。親の家 に住む二十七歳の独身男がある朝、「気がかりな夢から目覚めたとき、自分の体がベッドの上で、一人の女に変わっているのに気がついた」と始まる この物語は、言うまでもなく、カフカの「変身 」の設定をもじったものだ。しかも、この女 、男の目を釘付(くぎづ)けにするほどの巨乳の、なかなかの美人 な のである。さて、この主人公を待っていた都会での冒険は……。この先展開する、男が突然女になったことのとまどいや可笑 (おか)しさは、予測できる範囲内 の通俗的なものではあるが、男女の視点の転換を通じて、主人公がそれまで無視していた恋人の気持ちを初めて理解し、彼女と本当の「友達同士みたい」になれ たという結末は爽やかだった。