連絡した兄からの待ち合わせ場所は、千葉県ではなく埼玉県の住宅街の一角にある建物だった。
1階はコンクリート打ちっぱなしの工場、2階は事務所のような跡というか雰囲気がある。
ここを拠点として、仕入れたいちごの受け入れ・配送、お菓子の製造・配送を行うための工場を作るとのこと。
私「?」
いちごの生産をするために兄の会社に入社したのに、なぜ?
まだ千葉県の農場も見ていない。
疑問には思ったが、私は何も言わず従うことにした。
いちごの配送を数時間行って、残りの時間は全てお菓子作りの手伝い。
勤務時間は、7時から22時頃まで。
しかし、自宅から工場は電車で約2時間30分。
充分な睡眠時間はなく、ひどい時は終電を逃して工場近くの漫画喫茶に泊まっていた。
その生活が7か月続いた。
長時間労働、長時間通勤時間、休みなし、加えて工場内ではパティシエと2人きり。
いちごの農場にはいつ行けるのか分からない。
本当に生きた心地がしなかった。
この奴隷のような生活がいつまで続くのか、怖かった。
「兄を信じて、待とう」と毎日、自分に言い聞かせていた。
今思うと、自分にツッコミどころ満載だ。
なぜ疑問に思わなかったのか、言葉にしなかったのか。
いや、あの頃からすでに私の体は、侵されていたのかもしれない。