この記事は、2022年5月6日付けで自分のnoteで公開した記事に加筆修正を加えたものです。noteでは「トリセツの使いかたと作り方」にフォーカスしたため、入れることができなかった私の意見や、支援機関へのリンク先なども含まれる、いわば「完全版」となっております。

 

少々長いですが、発達障害があり、トリセツつくりに興味のある方は、ぜひご一読ください。

 


 

発達障害のある人のトリセツとは?

 
「自分のトリセツ」とは、発達障害のある本人や、子供の場合はその保護者の方が、特性と困りごとについて説明し、職場や学校などでサポートをお願いする際の相談材料とするもの。「サポートブック」「ナビゲーションブック」と呼ばれることもある。

ブックとはいうが、支援機関やデイサービスなどで要求されるのは、A4用紙2~4枚程度であることが多い。私などは「全然足りん!」と思ってしまうが、渡される方にしてみれば、あまり多岐にわたって詳細を書かれても読むのが大変だし、憶えていられるわけがないのだから、これぐらいにまとめてほしいという事なのかもしれない。

 
トリセツには何を書くの?

 
内容は「障害・症状名または特性」「具体的な困りごと」「お願いしたいサポート」など。ここに入りきれない記述のために備考欄もある。鬱や別の障害を併発している場合もここに記載する。

お世話になる場所でのサポートをお願いするものなので、「発達障害です。だからこれが出来ません、このように支援してください」と3つセットで作成しなければいけない。

 
ちなみにだが、我が家の長男(ASD・21歳)は障害学生として大学の支援課にお世話になっており、年度始まりに「合理的配慮申請書」なるものを作成することになっている。これも要件は「障害・症状名または特性」「具体的な困りごと」「お願いしたいサポート」の3本柱で、記載する内容も「トリセツ」とほぼ一緒である。

ただし、サポートについては学校内での授業に関する事だけが対象となる。例えば、授業中に感覚過敏のため気分が悪くなった場合は「配慮」されて早退を認められるが、その後に喋った内容がテストに出て点が取れなかった場合、後で特別に加点されたりはしない。必要な知識が頭に入っていないのだから、合格にならないのは当たり前だが、その分の勉強を常に自分で「想像しながら」するのは大変だろうと思う。がんばれ息子。

 

 

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実際にトリセツを作ってみる

 

さて、ここからは実際にトリセツ作りに取り掛かってみよう。
今回は、NHKが2017年に行った「発達障害プロジェクト」で配布された「わたしのトリセツ」というテンプレートを使用した。

今でもダウンロードして使用が可能なので、必要な方は→こちらからどうぞ。

また「発達障害プロジェクト」については、既に終了したプロジェクトであるためか、NHK公式サイトの中に紹介した記事が見つけられなかった。どんなものか詳細を知りたい方には、→こちらのLITALICO発達ナビの記事が参考になると思う。
 

 

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改めてテンプレートを見てみると、申請内容はA41枚にまとめる形らしい。

 

空欄に沿って必要項目を書き込んでいく。
項目名は次の通り。

・自分の特性
・困りごと
・対策とお願い

自分の特性については、チェックボックスが用意されているので、それほど内容を埋めるのは難しくない。その他欄がもう少し大きいと良いなとは思うが、どうしてもの場合は別紙を用意すればいいだろう。ちょいちょいとチェックを入れていく…(と、多いな!?え?こんなにあった?

 
困りごとの項目は記述式なので、少し面倒だと感じた。3つしか書けないので、日常生活の事はちょっと置いて、どこかに就職するならという前提で、仕事上で困りそうなことトップ3を書いてみた。しかし、就職を希望するなら「③睡眠障害があるので毎日決まった時間に出勤できない」は書かない方がいいような気もする…。

 
対策とお願いは「自分にできる対策」と「周囲にお願いしたいこと」の2つに分かれている。「自分にできる対策」の方は、いつも自分で仕事をするときに心がけていることなのですらすら書けたが…「周囲にお願いしたいこと」で迷ってしまった。

何をどう書いても聞いてもらえる気がしない。というか、最初はそれぐらいなんとかなるわよーと採用されて、自分も、職場(採用担当とは関係ない現場のいいひと)も、頑張って頑張って、頑張った挙句、どうしようもなくなって辞めてきたのがこれまでではなかったか。散々迷った挙句…飽きて適当に書いてしまった。

 

 

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完成したものがこちら



つくづく他人と仕事をするのに向いてねえなあ...と、思い知る内容に仕上がり、(予想通りとはいえ)少々落ち込んだ。

 

あと、よく見たら「集中の持続が難しく見落としや忘れ物が多い」のチェックを忘れている。全く!そういうとこやぞ!である。

 

 

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トリセツ作りの難しいところは?
 

この「自分のトリセツ」の作成の困難さについては、個人のnoteと別に「くらげ」氏と作っている「発達障害あるある対談」というnoteでも語っている。自分のトリセツを作ることは自分のできないことを認めることであり、それを自ら晒さなければならないことである。それは耐えがたい苦痛である…と、くらげ氏は言う。

もちろん、それは大いにあると思う。特にメタ認知が苦手であることが多いASD、ADHDのある人の多くは、自分を客観的にとらえた文章を書くこと自体苦手だ。また人によっては自分なりの解釈の入る余地のない、このような事実だけを列挙した文章では「本当のこと」を伝えたことにならないと感じるだろう。


しかし、それ以前の問題として、自分の困りごとが発達障害から来ているのか?それとも別のパーソナルな問題なのか?ということが、自他ともにわかっていないという場合もある。

それは発達障害の知識がないからという場合もあるし、自分の困りごとを困りごととして認識できていないという場合もある。そもそも困っているのは周囲で、当人は「周りはバカばっかりで困る」と思っている場合すらあるのが発達障害だ。

何が問題なのかわからない。だから、何をしてもらえば克服できるかもわからない、わからないまま「トリセツ」を書けと言われても難しい。どうしても「そうらしいですね」「どうしたらいいんですかね」の連発になる。

 

現場の支援者の方からは、「支援を求めてくるはずなのにどこか他人事で、自分のためという意識が感じられない」という話も聞く。早起きとか挨拶とか雑談とか、そこらへんのソーシャルスキルの問題は枝葉だ。自己認識の乏しさへの違和感こそが、この障害の本丸なのである。

 

 
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子どものトリセツを作るときの問題点

 
子どものトリセツ作りにはまた別の問題もある。大人の発達障害者の場合、ある程度、生活や仕事上での困難を感じてから「おかしいな」と診察を受けることが多いが、子どもの場合「おかしいな」と感じるのは親か近しい親戚(おばあちゃんなど)、もしくは幼稚園や保育園のスタッフというパターンが多い。

大人であればトリセツを作るのも自分のタイミングでできるし、なんならしなくても良い。提出は義務ではないのだ。(そのために不利益を被る場面もあるかもしれないが)しかし、子どもの場合はデイサービスや学校の支援教室に入るかどうするかの相談の前に用意しろと言われて、あわてて親が作ることになるのではないだろうか。

3歳児検診、就学前健診で、「発達上気になる特性が見られる」と言われて、初めて子どもに発達障害があることを知ったという話をよく聞く。検診があるのは幼稚園、小学校に入る、ほんの2~3か月前だ。それまで我が子に障害があると疑ったこともなかった親は、この数カ月で大変なパラダイムシフトを強いられることになる。そこに当然のようにやってくるのが、このトリセツ作成なのだ。

子どもの行動やしぐさが、障害によるものかそうでないのか、発達障害について勉強しながら、子どもの様子を注意深く観察しなければいけない。学校や行政では何をしてくれるのか、医療機関はどこにかかればいいのか、そんなことを探りながら…トリセツを作る時間や心の余裕が残っているだろうか。正直大変厳しいだろうと思う。

 

 

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トリセツ作りをフォローしてくれる機関も

 
療育センターや発達障害専門のデイサービスなどでは、本人や保護者から聞き取りをしながら、一緒に学校などへ提出するトリセツを作ってくれるところもあるそうだ。

しかし、こういう支援機関がアクセス可能な地域にあり、繋がることができるのは完全に運しだいであることは付け加えておきたい。

 

 

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ネット上で、トリセツ作りを手伝ってくれる支援NGOもある。

 


トリセツ作りに特化した機関ではなく、学童期の子どもを持つ保護者への支援の一環として行っているので「今日相談して、明日提出!」という使いかたはできない。なお完全不登校じゃなくても参加OK。発達障害のあるお子さんは学校に行きたがらない場合も多いもの。将来的に世話になりそうだとピンときたら、「保護者向けオンライン相談」への申し込みだけでもすぐにやっておくことをお勧めする。

 

 

20220506(初出)20220517(加筆)