久々にテスト産業に勤める専門家らしいお話しを少々(といっても、それほど詳しいわけでもないけれど)

テスト会社で、これまで州規模のテスト結果の分析&レポートを2州ほどやりました(というか、今もやっているので、過去形ではなく現在進行形)が、どちらの州のテストにもいくつかの共通点があり、今日はそれと日本のテスト形式に違いで気づいた点を一つ。

タイトルにもあるように、テストにある、問題、ないし設問(=Item)の形式(=Format)が、アメリカの(テスト会社がテストの作成&分析を依頼されるような、州規模の)テストと、日本の(偏差値が出るような模擬試験や、大学入試のような大規模な)テストでは、(一見同じように見えて)意外にも違うことに気がついている人は少ないと思います。

では、一体どこが違うのか?というと、ズバリ

テストにあるそれぞれの設問(つまり各問い)で測る(またはチェック)しようとしている学力が、一つに絞られている(=一つの能力だけを測ろうしている)か、または二つ以上の学力をチェック、または測ろうとしている

ということですが、これ読んでもピーンとこないと思うので、早速具体的な例を挙げると、

日本の英語の入試問題で、超難解国立大学がよーく出す問題の形式の一つが、

「以下の英文を読み、~字以内の日本語で要約せよ」

というもの。もちろん、この類の問題で出題される英文は簡単な文章ではなく、それなりの読解力がなければ理解できないものが多く、やっと理解したと思っても、それを日本語で決められた字数でまとめなければいけない、というハードな問題です・・・

・・・が、皆さん、よーく考えて下さい。(日本で大学受験の予備校講師が指摘しているのを聞いたことがありますが)これは(国語の問題ではなく)英語の問題です。

しかし、この問題で求められる能力は、英語の長文を理解する読解力(=Reading Comprehension)の能力はもちろん、それを日本語で決められた字数以内で書く文章力(=Writing Skill)も求められています。

さらに細かく言うと、文章を字数内で書くには、ひらがなで長々と書くことはできず、文章のポイントをきっちり言い表している漢字、熟語表現を多用しないといけないことが多く、文章力(=Writing Skill)どころか、日本語の語彙力(=Vocabulary Skill)まで求 められていると言っても過言ではありません。

つまり、「英語のテストの設問なのに、設問を答えるには、高い国語力も求められている」

言い換えれば、

一つの設問で、二つ以上の能力が測定(=Measure)ないしチェックされている。

これは、日本の問題の顕著な特徴で、単なる語彙力、文法力、表現力を見る問題もあれば、(例えば)入試問題のような大勢の人が受けるテストで、決め手となるような設問(=つまり受験を突破するような学生は解けるが、落ちるような学生は解けないような、合否を決める難問)は、概して(上記の例のように)二 つ以上の能力を測られている(求められている)ことが多い

というのが、日本のテストの特徴です。

ということは、アメリカのテストはそうでない・・・という流れで、

アメリカの州規模のテストでは(極力)各設問は一つの能力を測ろうとしている(つまり、求められている能力は極力一つ)!!!

という違いが(実は)あるのです。

Dimensionという単語がこれを分かり易く説明するKey Wordで、私の従事するテスト産業、またはそれに関係するEducational Measurementの分野では、「Multidimension」、「Unidimension]という単語を使って、きっちり区別されています。

*形容詞の形で「Multidimensional」、「Unidimensional」と呼ばれることも多い。

「Dimension」という単語は「寸法、次元、様相・・・・」など沢山の訳語がありますが、一番近いのは「側面」という訳語で、テスト分野、ないしMeasurementの分野では、Dimension、つまり側面とは、人間の持つ様々な能力の一面を測る、という意味で、Dimensionという単語は使われています。

「Multi-」というのは英単語の接頭語で良く使われ、意味は「多様、複数」で、MultidimensionalはMeasurementの分野では「多様、複数の側面」という意味で、設問がMultidimensionalである、というのは、「一つの設問が、二つ以上の能力を測る、またはチェックしようとしている」ということを意味します(つまり日本のテストの設問のような形に近い)。

*日本の英語辞書では、Multidimensionalを「多次元の」なる訳がなされていますが、ちょっと想像しにくいと思います。

逆に、「Uni-」というのは、「一つ、単一」という意味の接頭語で、Unidimensionalは、「設問が一つの能力だけを測定している」という意味です。

*United States、Uniform、のようにUni-は一つにする、という意味で日本人でも馴染みがあるような接頭語です。

アメリカの(テスト会社が作成&分析に携わるような)大規模のテストでは、一般的に各設問は、Unidimensional、つまり一つの能力に絞られている場合が多く、日本のテストとは顕著な違いです

では、なぜこのような違いが現れるのか?というと(私の知る限り)、

日本の場合、テストが合格者と不合格者を決める、という選別の要素が多いため、Multidimensional、つまり複数の能力を求めるような高度な難問を出すことによって、選別しやすいテスト結果、つまり点数にしないといけない。

ということが確実に言えると思います(といっても、それ以外にも理由があると思いますが、上記の理由は間違いなく当てはまると思います)。

逆にアメリカの場合、

州規模のテストは、選別のような要素はなく、生徒の学力状況を正確に測る、または把握するという要素が強く、そのためテスト結果の分析がし易いようなテスト結果にするためには、各設問をUnidimensionalにした方が、(我々のような)テスト結果を分析&レポートする人間には都合が良い。

となり、どちらも極めて実用的、プラクティカルな理由があります。

確かに、アメリカのEducational Measurementの分野で、Multidimensional Item・・・といった呼び方で、研究がなされているのは事実ですが、実際問題、それを行うとしたら、テスト会社は大変な仕事量になり、そのレポートでも、各州政府の専門家に分かるように説明していけるか?というと極めて難しいので、Unidimensionalの方が都合が良いのです。

*うちの会社の場合、毎年Survey、つまりアンケート調査を州政府の教育関係者に行い、Educational Measurementの専門用語をどこまで理解し、テクニカルレポートを把握できているか調べるのですが、やはりEducational Measurementの専門家ではない彼らから、 レポートを分かり易くしてほしい、という要望は絶えず、専門用語を正確に理解していないのが、Surveyの結果からも明らかになっています。


というわけで、テスト形式の違いから、日米のテスト産業の違いを見出す・・・まさに、専門家らしい、マニアックなネタになってしまいました。