ご縁あって、生活史の授業データをいただいたので、通勤途中に聴いている。

生活史ときくとなんだから、暮らしの研究のように聞こえるが、その暮らしの根底にあるものはなにか?という深い洞察をもった授業で、とても面白い。なぜ、和服、洋服があるのか?という点をみても、さして深く考えずそういうものなんだ、と思っている自分がいるが、それもなにかしら考えの根底があり、それがどう作用しているのか・・・そんなことを考えるだけでも非常に面白い。

その中で、宮本常一先生の話がでてきた。宮本先生はかの渋沢敬三氏に認められ、支えられて日本の文化を研究した人らしい。
その宮本先生が郷土を離れるときに、お父さんが残した言葉が紹介されていて、非常に心打つ、そして、考えるべき言葉があった。
鋭い洞察の根底からくる言葉。大変な貧しい生活だったそうだが、その中でも自分の頭で考え、そして概念化していたことが伝わってくる。

ビジネス、人生、なんにでも置き換えが可能な言葉。じっくり噛み締めたい・・・

(1) 汽車へ乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。
(2) 村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまようようなことはほとんどない。

(3) 金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。

(4) 時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。

(5) 金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。

(6) 私はおまえを思うように勉強させてやることができない。だからおまえには何も注文しない、すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。三十歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし三十すぎたら親のあることを思い出せ。

(7) ただし病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。

(8) これからさきは子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならない。

(9) 自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。

(10)人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大切なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。

民俗学の旅 (講談社学術文庫)/宮本 常一