ポルフィディオ呑み比べ! | 日本テキーラ協会会長 林生馬 official blog

ポルフィディオ呑み比べ!

私がロサンゼルスに住んでいた頃、有名なスシバー(お寿司屋さんのことです)の棚に並ぶ日本酒の瓶の中に、ひとつだけ奇妙なボトルがあるのを見つけました。そのボトルは透明で、中に緑のサボテンが入っています。店の方に訊くと、この酒は俳優ロバート・デニーロのボトルキープだといいます。これが後に有名になるテキーラ・ポルフィディオです。もう時効かなと思うので白状すると、人様のボトルキープですがお店の方が一口呑ませてくれました。1994年の私の記録では、NOM1121。ローランド産と思われる引き締まった味で、コクもあり、樽香が強いタイプのテキーラでした。当時私が呑んでいた100%テキーラ達のチナーコやサウザ・ホルニートス、今は無くなってしまったテキーラ・ガラードンなどに比べ、ずいぶん高級な味がするなと心底衝撃を受けたものです。すぐにボトルを買いましたが、当時サウザ・ホルニートスが$15ほど、ガラードンが$20前後、チナーコでも$30はしなかったのに、ポルフィディオは$80もしました。その後、デニーロがポルフィディオのアネホをロックで呑む姿を実際に目撃し、カッコつけて真似してみたりしたものです。


本来は人さまのプライベートを勝手に書くのは良くありませんが、15年も昔のことなので容赦していただきます。北野武監督がロサンゼルスにいらした際に、このスシバーにご一緒させていただきました。いつもはウイスキーのロックだとおっしゃった北野監督にポルフィディオのロックを勧めると何杯もおかわりされ、「これ日本に売ってないの?」と非常に気に入っておられました。呑んでるのはあのデニーロのボトルキープです。テキーラがどんどん減っていき、お店の方もデニーロを立てるか、世界のキタノを喜ばせるか悩んだことでしょう。もしこの時デニーロが店に来たら世紀のケンカが見られるのかとドキドキしましたが、それは起こりませんでした。北野監督が大変なバイク事故に遭われる数ヶ月前のことです。


日本テキーラ協会会長 林生馬 official blog ポルフィディオを興したマーティン・グラッスルという興味深い人物と、ポルフィディオがテキーラではなくなってしまう経緯については、非常に長い話なので近いうちに連載します。


今日は、最近発売になったポルフィディオの10年熟成(1000本限定品)の、ポルフィディオ・クリスタル・アネホと、普通のポルフィディオ・アネホ(現在のスーパーハリスコ表記以前の3年前のロット)の呑み比べをします。

写真は右が10年熟成のクリスタル・アネホ。ボトルがクリスタルで綺麗です。左が5年熟成の普通のアネホ。手吹きボトルはコカコーラのボトルを溶かしてリサイクルしたもので、中のサボテンは7upのボトルから。とてもエコで味のあるボトルです。



ポルフィディオ・アネホ (NOMなし)(2005年位のロット・5年熟成・シングルバレル・38%)


色は濃い目でマホガニー。粘度は高い。香りはアメリカンオークの樽香を強く感じ、若いバーボンを想わせる。新樽オーク特有のヴァニラ香、シトラス。アルコール臭は低い。口に含むとさらに強くオークを感じる。ライ麦の代わりに小麦を使うウィーテッドバーボンのオールドリップ4年を思い出す。程よい甘みを感じるが、蒸留を3度行っているのかアガヴェ特有の香りはそれほど出ていない。アフターテイストもバーボン香とピリピリ感が程よく続く。テキーラというよりは、極めて上質なバーボンを呑んでいる趣き。


ポルフィディオ・クリスタル・アネホ (NOMなし)(1998年樽詰10年熟成・シングルバレル・39.3%)


色はカッパーで、5年ものより淡く上品な色。粘度は5年ものより明らかに高い。香りはまずアガヴェを感じ、アルコール感もある。しばらく置かないとシトラスなどの香りは出てこない。口に含んでも樽はそれほど主張せず、ブランデーのような果実感がある。味は旨み、程よい苦みが混在し、かなり深く複雑なテイスト。舌のピリピリ感も若干ある。アフターテイストは非常に長く、爽快感も残る。この酒ならではの唯一無二の魅力を備えた面白い酒。普通のポルフィディオとは似ても似つかない。