6年前

2020年5月21日。悪性リンパ腫と診断されたあの日、私は「先の未来」を考えることを封印した。明日という日が当然のようにやってくるなんて、もう期待できなかったからだ。

もともと予定を書き込む習慣なんてなかった私だが、あの頃は特に、未来を文字にすることがひどく辛かった。「来月の予定」なんて書こうものなら、叶わない約束を自分自身に刻んでいるようで指がすくむ。そうして空白のまま過ごすことが、私なりの悲しい防衛本能だったのだろう。暗闇の中に突き落とされた私は、アメブロのプロフィール欄に「ただの暇つぶしです」とだけ書き捨てて、闘病という名の戦いを始めた。

あれから、六年。命の分水嶺だった移植手術からは、五年の月日が流れた。

先日、主治医からずっと待ち望んでいた言葉を告げられた。

「完全寛解です。これからの人生、思いきり楽しんでください」

「ああ、終わったんだ」と胸が熱くなると同時に、不思議な感覚がこみ上げた。以前なら絶望の種でしかなかった「未来」という言葉が、今は穏やかな光を帯びて感じられる。よし、とりあえず来年の手帳でも買ってみるか。そんな些細なことが、今は最高に贅沢な喜びに思えるのだ。買わんけど。




仲間たちの温かさと支え

思い返せば、抗がん剤の副作用で髪が抜け落ちていく時、鏡を見るのがひどく嫌だった。今に至るまで、髪はほとんど戻ってきていない。サラサラヘアーの持ち主にはなれなかったが、命は助かった。天は二物を与えずというか、命は助かったが髪という「装飾」は持っていかれたらしい。そんな私の姿を前にして、友人の一人は何の迷いもなく自らの頭をバリカンで剃り上げ、「坊主」になって現れた。画面越しに見たその潔すぎる姿に、泣き笑いしたのを覚えている。あれは彼なりの精一杯の連帯であり、暗闇の中に灯してくれた小さな明かりだった。ハゲだけに。

また、サロという名の友人は「暇つぶしにでも」と言って、ゲームソフトを贈ってくれた。それも、ただ段ボールに詰めるような無難なことはしない。思わず病室でツッコミを入れたくなるような、不審物スレスレの、やたらと癖の強い梱包で届いたのだ。中から現れたのは、『アンチャーテッド』や『ドラクエビルダーズ』など。

深夜の病室で、外の世界から完全に隔離されていた私にとって、コントローラーを握っている間だけは、病の痛みも未来への恐怖も忘れることができた。本当に、どれほどあの壮大な世界に救われたことか。ゲームで世界を届けてくれたサロには、結構、助けてもらったのだ。

それから、タカシくんの存在も欠かせない。彼が教えてくれた「とあるドリンク」は、私の身体を内側から支えてくれた。あれが間違いなく病への抵抗力となり、今のこの寛解という結果を大きく手繰り寄せてくれたのだと確信している。本当にありがとう。



家族、そして日常へ

2021年、無事に移植手術を受けた。その時、私の身体には姉から分けてもらった血液が流れた。自分の中で新しい時間が脈打ち始め、今日を手繰り寄せてきたのは、姉という命の繋がりがあったからこそだ。ずっと見守り支えてくれた両親や親族の存在も、大きな大きな支えだった。

この六年間で一番心配をかけたのは妻だ。当時はコロナ禍で面会も叶わず、彼女は病室の外からずっと、私の明日を信じて支え続けてくれた。私がゲームに熱中して現実を忘れている間、彼女は一人で不安と向き合いながら、ただただ静かに帰りを待っていてくれた。そんな彼女の姿を思うと、愛おしさと感謝が込み上げる。言葉には尽くせないほど、ありがとうと言いたい。

そして、あの頃はまだ二歳。父の身に起きていた危機など何ひとつ分かっていなかった息子。彼がいつも通りに無邪気でいてくれたことが、私にとっては一番の救いだったかもしれない。何も知らずに笑っていてくれて、本当にありがとう。面会制限の厳しい中、何度も病院の受付や外まで足を運んでくれた友人たちも。直接会えるのは短い時間だったが、病院の冷たい外気にさらされながら届けてくれた笑顔や言葉は、どんな薬よりも温かい励ましだった。




最後に

一つだけ。この「完全寛解」の事実は、会社には墓場まで持っていくことに決めた。元気になった途端に「じゃあ、この仕事も」と業務量が激増するのは目に見えている。死線を越えたこのボーナスステージを、再び会社に捧げるなんてまっぴらごめんだ。健康であることの最大の特権は、適度にサボりながら自分らしく生きる権利を守ることにあるのだから。


画面の向こうでブログを読んでくれた人たち。生かしてくれたすべてのもの。

一番に心配をかけた妻。血を分かち、生きる力をくれた姉と家族。何も知らずに二歳の無邪気でいてくれた息子。何度も足を運んでくれた友人たち。私と一緒に坊主になって笑い飛ばしてくれた友。とあるドリンクを教えてくれたタカシくん。そして、ゲームで世界を届けてくれたサロ。

すべてに、心からのありがとうを。無事にこの日を迎えられて、本当に喜ばしいことである。人生のボーナスステージに突入した記念すべき今、自分で言うのもなんだけど、誰かお祝いパーティーしよう。あの癖のある梱包で世界をくれたサロも、また新しい「世界」を届けてくれるのを待っているよ。

また笑って会おう。


感謝、般若。