はじめに、立場をはっきりさせておきます。
私はIPMNの患者ではありません。
人間ドックの腹部エコーで「5mm大の膵嚢胞疑い」と指摘され、精密検査までの2か月半、調べ尽くした人間です。結果は偽陽性でした。嚢胞はありませんでした。
これまでの記事では、その区別を曖昧にしたまま書いていました。
同じ病気の当事者として読んでくださっていた方には、
紛らわしい書き方をしていたと思います。
何が本当だったのかを書いておきます。
指摘を受けたのは事実です。結果を待つあいだ、夜中まで検索し続けたのも事実です。
人間ドックを受けた病院で初診を受けたあと、精密検査は自宅近くの茅ヶ崎市立病院で受けることにしました。ここは調べ尽くしたうえで選んでいます。
消化器内科に日本膵臓学会の指導医がいること。超音波内視鏡で組織を採る検査(EUS-FNA)を年間60〜70例、超音波内視鏡を使ったドレナージ治療も年間15〜20例手がけていること。地域で初めて早期膵がんの診断プロジェクトを始めた病院だということ。そして、初診で診てくれた先生が1年前までこの病院に勤務していたという縁もあって、紹介はスムーズに進みました。
ただ、ここは本当に悩みました。
人間ドックを受け、初診も受けたのは、関東でも指折りの規模の病院でした。
しかも膵臓の診療には特に力を入れていて、肝胆膵を専門にする医師が何人もいる。
設備も整っている。普通に考えれば、そのまま診てもらうのが一番のはずです。
引っかかったのは距離でした。会社からは近いのですが、自宅からは2時間近くかかります。
あのとき私は、これから何年も、半年か1年ごとに通い続ける前提で考えていました。40代の今なら2時間でも行けます。でも10年後、20年後はどうか。歳をとって、仕事を辞めて、それでも同じように通えるだろうか。そう考えたときに、家から車で20分という距離が、設備の差よりも重く感じられました。
だから、規模ではなく「続けられるかどうか」で選びました。幸い、近所の市立病院にも指導医がいて、超音波内視鏡の実績もありました。そこがなければ、たぶん別の結論になっていたと思います。
とはいえ、紹介の手続き、予約、検査の待ち。全部合わせて2か月半から3か月、不安が途切れませんでした。MRCPもEUSも実際に受けました。あの狭い筒の音も、喉の麻酔も、経験したことです。
そして精密検査の結果、嚢胞は見つかりませんでした。
翌年の人間ドックのエコーにも何も映らず、そこで完全に吹っ切れました。
なぜ当事者のように書いたのか。
ひとことで言えば、患者のままだったら書けなかったからです。
検査を待っているあいだ、私は自分の膵臓のことで頭がいっぱいで、誰かのために何かを書ける状態ではありませんでした。外に出してもらえて、ようやくあの2か月半を言葉にできるようになった。
ただ、外に出た人間の話を読みたい人はいないだろうと思って、内側にいる書き方をしました。判断としては間違いでした。だから、ここで直しておきます。
そのうえで、この1年4か月ずっと引っかかっていたことがあります。
あの2か月半で、私が一番苦しかったのは病気そのものではありませんでした。
何も分からないことでした。
「膵嚢胞 5mm」と検索する。出てくるのは、医学的には正しいのに、自分がどうなるのかは何ひとつ分からない情報ばかりです。論文は読めない。体験談は一人分で、条件が自分と違う。数字はあっても、どれが自分に当てはまるのか分からない。医師に聞いても「精密検査をしてみないと分かりません」。それはそのとおりなのですが、待っている側には長すぎる時間でした。
あのとき本当に知りたかったのは、治るかどうかではありません。自分と同じ大きさ、同じ型、同じ状況の人たちが、その後どうなっているのか。 それだけでした。
ここからは、少し明るい話をさせてください。
この1年4か月、書いてはいませんでしたが、膵臓まわりのニュースはずっと追いかけていました。
「見つける力」は、はっきり上がっています。
今年6月、神戸大学が、CT画像から膵臓がんを見つけるAIを発表しました。すごいのは、腫瘍そのものの影だけでなく、膵臓の萎縮や膵管のわずかな狭まりといった「まわりの変化」も一緒に拾うように作られていることです。
20mm以下の小さながんでは、専門医の感度を上回ったと報告されています。
私たちが「MRIやCTでは見えなかった」と聞かされてきた領域に、機械の目が届きはじめています。
血液や尿から見つける研究も進んでいます。今年に入ってからも、血液中の代謝物のパターンをAIに読ませる手法や、マイクロRNAを使う検査の報告が続いています。どれもまだ研究段階で、明日の検査が変わるわけではありません。それでも、2年前に私が調べていたときより、選択肢の芽は確実に増えています。
そして、経過観察のルールそのものも動いています。
IPMNの国際的な指針は2024年に改訂されました(以前の記事で「2022年版」と書きましたが、正しくは2024年の改訂版です)。改訂のたびに、手術の線引きはより慎重に、一人ひとりの状況に合わせた方向へ進んでいます。
もうひとつ、私が一番興味を惹いたニュースがあります。
日本膵臓学会が、全国74の施設で、分枝型IPMNの方およそ2000人を5年間追いかける研究をしています。
つまり、「ひとりの経過を見ていても分からないことが、2000人分を並べると分かる」というやり方を、専門家自身が本気でやっているということです。
それを知ったとき、自分の考えていたことは的外れではなかったんだ、と思いました。同時に、こうも思いました。その研究の結果が論文になって、私たちの目に届くのは何年も先です。今日、検査結果を聞いて不安になっている人には、間に合いません。
だから、いま作っています。
同じ状態の人たちのその後が、数字で見られる仕組みです。
仕組みはこうです。検査を受けるたびに、大きさと、医師から言われた方針を記録します。記録は誰にも見せません。集計にだけ使われます。そのかわり、自分と同じ型・同じ大きさ・同じ状況の人たちが、
- 指摘されてから何年たっているのか
- 1年目、3年目に、大きさがどれだけ変わっているのか
- どれくらいの間隔で、どの検査を受けているのか
といったことを、まとめて見られるようになります。
名前もメールアドレスも要りません。誰かに相談する場所でもありません。
やりとりの機能は作らないと決めています。
資格のない人が他人の体について助言することは、善意であっても危険だからです。「大丈夫だよ」も「それは危ないよ」も、言えるのは主治医だけです。
画像を読むAIは、病院の中で医師を助けてくれます。一方で、待っている側の時間を助けてくれるものは、まだほとんどありません。
検査と検査のあいだの半年、結果を聞くまでの1週間。あの時間に効くのは、最先端の技術そのものではなく、「自分と同じ状態の人が、その後どうなっているか」という、ごく素朴な情報だと思っています。それなら、私たちの手でも集められます。
そして今度は、私の話は出てきません。表示されるのは、使う人たちが残した記録を集計した数字だけです。私が当事者かどうかに関係なく成り立つものを作っています。
いまも作っている途中ですが、10月のはじめには、このブログで見ていただける形にしたいと思っています。
そのうえで、ひとつお願いがあります。
「こういう項目があったら見たい」というものを、コメントで教えてください。
大きさの変化なのか、検査の間隔なのか、手術になった人がどれくらいいるのかなのか。2年前の私が知りたかったことと、いま実際に経過観察を続けている方が知りたいことは、きっと違います。そして今の私には、その違いが分かりません。
今週のうちにいただいた声は、最初の形に間に合わせます。
それ以降のものも、順番に足していきます。
このブログは、立場をはっきりさせたうえで続けます。
私は当事者ではありませんが、あの2か月半を忘れられずにいる人間として、膵臓の検査や研究のニュースを追いかけることと、このツールができていく過程を書いていきます。
引き続き、よろしくお願いいたします。
