打ち合わせの帰り道。
今日はショウ君、少し遅くなるって言ってたから……ちょっと寄り道してみようかな。
でも、マー君のラーメン屋さんはこの近くにはないし、ジュン君のお店も遠い……。
あってもこの時間に食べたら夕飯作る気なくなっちゃうからなぁ。
二人のお店は美味しいから、何か食べたくなっちゃうんだもん。
ふと目に留まったコバルトグリーンの看板。
Lo……なんて読むんだろ?
バーかな?
興味を惹かれて、フラフラと店の前まで近寄ってみる。
ドアはちょっと重たそう。
簡単には入れてくれなそうな雰囲気。
でもたまには一人でバーとかにも入ってみたい。
カウンターで一人でお酒を飲むって映画みたいで憧れる!
大丈夫かな?
普通のバーだよね?
探偵とかがカウンターにいたりして!
そんで奥がカジノバーになってたりとか!
あはは、それは考えすぎ!
でも、すっごく高かったらどうしよう?
ぼったくりまでいかなくても、高めのバーってどれくらいするんだろ?
カードで払えばなんとかなる?
あんまカードとか使ったことないけど……。
世間知らず過ぎ?
おいらくらいの歳になれば、それくらい知ってるもんだよね、きっと。
ええい、大丈夫!
おいらだってもう大人!
こういう店にだって入って行ける!
行け!サトシ!男だろ!!
勇気を振り絞ってドアを引く。
「いらっしゃいませ。」
落ち着いた男の人の声が迎えてくれる。
ドキドキしながら入って行くと、席はカウンターだけの小さな店内。
早い時間のせいか、お客さんもいなくて、ちょっとホッとする。
探偵がいないのは残念だけど!
カウンターの中の男の人が、スッと真ん中の席を促してくれる。
「どうぞ。」
笑顔がマー君に似たイケメン!
優しそうな頬の皺とか、あったかそうな目尻の感じとか、大丈夫って感じさせてくれる。
高めのスツールに、うんしょと腰かけて、お店の人と向かい合うと、なんか照れる。
こういうとこ、来慣れてないってわかっちゃうかな?
でもしょうがないよね?
だって本当に慣れてないんだもん。
腰の位置を直して足をブラブラさせると、店員さんがニコッと笑う。
「何になさいますか?」
爽やかイケメンがおしぼりをおいらの前に置いてくれる。
おいらは店内を見回す。
カウンターの奥に並べられたお酒の数々。
どれも全然わからない。
ニノは木村さんに連れてきてもらったりするのかな?
ショウ君とかジュン君ならこういうのもすぐわかっちゃうんだろうな。
『○○をストレートで』とか言っちゃって。
想像しただけでカッコいい。
二人はイケメンだしな~。
ショウ君はちょっと人差し指を添えたりして、ジュン君は斜に構えたり!
絵になるんだよね~。
真似してみる?
ローマの休日のグレゴリー・ペックとか、ハンフリー・ボガードみたいに。
チラッとお店の人の顔を見る。
マー君に似た顔が、ニコッと笑ってくれる。
……止めておこう。
カッコつけてるのがバレたら恥ずかしすぎる。
「何か、お飲みになりませんか?アルコールの入っていないものもお作りできますよ。」
や、やばっ。
「あ、え~っと……。」
何頼んだらいいかわからないよ~。
急いで知ってるお酒がないか、カウンターの奥に目を走らせる。
残念だけど、知ってるお酒は一つもない。
焼酎やビールなんて並べて置くわけないもんね。
足をぶらっとさせると、椅子がキーと音をさせる。
「なんでも……。」
下を向きながらそう言うと、お店の人がカウンターの上にナッツを出してくれる。
「では、飲みやすいものをお作りしますね。」
「はぁ……。」
グレゴリーペックもボガードもあったもんじゃない。
お酒とか、ショウ君にもっといろいろ聞いとけばよかった!
大人の嗜み!
「お仕事の帰りですか?」
爽やかイケメンがロックグラスを取り出す。
「はい、久しぶりに出たから、ちょっと寄り道したくなって。」
イケメンがニコッと笑う。
ほんと、いい笑顔!
この笑顔を見てるだけで、優しい気持ちになれる。
マー君ちでマー君と犬のショウ君と猫のサトシ君に会った時みたい!