カイト 下 | TRIP 嵐 妄想小説

TRIP 嵐 妄想小説

嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。



どうしてこんなに素直になれるのだろう。

そう彼が思うほど、心の内を話す自分に驚く。

「じゃあきっと、その教授とはタイミングが合わないんだね。

 ちょっと様子を見て、タイミングをずらしてみたら?」

店主の言葉に、なるほどとうなずく。

「俺、せっかちだったのかな。」

「そうだよぉ。」

店主が笑って、まとめた本を棚に戻す。

友達から何度せっかちだと言われてもそう思わなかった彼が、

店主の一言で納得してしまう。

店主の言葉には、そんな説得力があった。

彼はふと首を傾げて店主を見る。

「店主さんはどうして古本屋の店主なんて?」

駅の近くにあるわけでもない、チェーン店でもない、どう見ても流行ってそうもない古本屋。

そんな店で、店主のような若者が主をしているのが不思議でしかたなかった。

彼は、トントンと本をまとめ、店主を見上げる。

店主は彼を通り越え、店の奥に目をやり、その目を細める。

「時間が……欲しかったのかな。」

「時間?」

「自分が何なのか知りたかった。」

店主はふにゃりと笑い、店の奥にまた目を向ける。

「この店はじーちゃんの店でさ、小さい頃、店番するじーちゃんの隣で

ずっと絵を描いてた。」

「絵?」

「そう。」

店主は、すぐ脇にある棚の間の柱を見上げる。

その先には、立ち読み禁止の貼り紙がしてあり、

広げた本を手に怒られている男の子の絵が描かれている。

店主が小さい頃描いた絵だろうか。

彼に絵の教養はほとんどないが、わかりやすく描かれたその絵は、好感がもてると思った。

「じーちゃんが一昨年死んじゃって、ここを貸してもらったんだ。

 古本の知識とか、全然ないんだけど。」

店主はクスリと笑って、また貼り紙を見上げる。

「じーちゃんの見よう見まねでやってきたけど、今月末で店も締める。」

「えっ……。」

驚いた彼に、店主がニコッと笑う。

「約束だから。2年って。」

「そうなんだ……。」

彼は束になった本を棚に上げ、店内を見渡す。

棚には最近流行りの漫画も並んでいる。

店主が買い取り、棚に並べる姿を想像する。

ぼったくられてもきっと気づかないだろうと思うと、その光景が微笑ましくも思える。

「働き始めちゃったらさ、何かを追いかけるのは難しい気がしない?」

「する。」

彼が即座に返答したのは、彼にとっても就職が念頭にあったからだろう。

「で、自分が何者かわかった?」

店主はゆっくり首を振る。

「わかんない。」

両手で喉を撫で、う~んと首を伸ばす。

「きっと一生わかんねぇ。」

目の前の本がなくなったのを確認して、店主が立ち上がる。

「それでいいんだよね。一生探し続ける。」

そういうものなのだろうと彼も思った。

彼自身も自分が何者なのか、全くわかっていなかった。

探そうとすら思っていなかった自分に、ショックと不安が沸いてくる。

そのことに気付き店主を見上げると、店主がふにゃりと笑う。

その笑顔が大丈夫だと言ってくれているようで、彼もぎこちない笑顔を返す。

ただ、それだけではなかったのだろう。

お爺さんと一緒に幼年期を過ごした店。

思い出をすぐに潰してしまうのは、この優しい青年には難しかったのかもしれない。

ここは20年前がタイムスリップしてきたように時間が止まっている。

ホコリ臭い匂いも、柱の貼り紙も。

「で、お客さん、何を取ろうとしてたの?」

そうだと彼は左の棚を見上げる。

「あの漫画の5巻か6巻……。」

彼はう~んと手を伸ばし、5巻をパラパラと捲っていく。

「あれ?おかしいな……。」

目当てのシーンは見当たらない。

5巻を手にしたまま、6巻を引き抜く。

6巻にも目当てのシーンは見つからない。

「記憶違いかな……。」

彼はそれでもページをゆっくり捲り続けた。

見つからないとわかってしまったら、

この店を出て行かなければならないような気がしたからだ。

できればもう少し、ここに居たいと思っていた。

この不思議な空間で、このふにゃりと笑う店主と一緒に。

もしかしたら夢なのかもしれないと、ふと思う。

それくらい、ここは居心地がよかったのだ。

店主が、んふふと笑って、奥から一冊の本を持って来る。

「これ、持ってって。」

「え?」

一瞬躊躇した彼の手に、店主は強引に本を押しつける。

押し付けられた本のタイトルをなぞるように撫でると、店主がふにゃりと笑う。

「あなたが探していた本はきっとそれ。」

彼は本など探していなかった。

探していたのは好きなシーンのある漫画だ。

けれど、渡された本を胸にすると、穏やかで安らいだ気持ちが広がっていく。

彼は嬉しかったのだ。

彼が欲していたのは、本当にこれだったのかもしれない。

本のタイトルをまじまじと見つめる。

「あなたの名前……。」

彼は勇気を振り絞って聞いてみた。

「おいら?おいらは……。」










長くなっちゃったので、「その後」として1話上げます。

その時にタイトルも変えるね~!