~ IN THE SUMMER side story ~
あれから俺は、約束通り千葉に通ってる。
週末、潤の店で飯食って、智んちに泊まる。
二人っきりになると若干可愛くなる智。
男っぽいのに可愛いってどうなってんの?
もしかして俺も可愛くなってる?
まぁ、なんにしろ、今の俺、最高に幸せ!
神様ありがとう!
俺と智を引き合わせてくれて!
俺らの夏を与えてくれて!
もちろん、夏休みが終わっても、千葉には通い続けるつもり。
土曜に授業入れなかった4月の俺、えらい!
今週は、ニノと雅紀もやってきた。
なんでかって言えば……
「潤、誕生日おめでと~!」
クラッカーがパンパンと鳴る。
照れ臭そうな潤の顔!
なんだよ、年相応の顔もできんじゃん。
19になった潤。
来年になれば一緒に酒も飲める!
「おめでとう。」
智が後ろからプレゼントを取り出す。
木でできたスツール。
「これでカウンターの中でも疲れないだろ?」
智がカウンターの中にスツールを持って行く。
落ち着いた色の流木を思わせるスツール。
「あ、もしかしてこの間の?」
潤の目が細くなる。
「そうそう。ちょうどいい感じだったから。」
「この間のって?」
聞いたのは雅紀。
雅紀も知らない二人の時間?
むむ、ちょっと妬ける。
俺を見た潤が笑う。
「テラス片付けるの手伝ってくれたんだよ。
で、ついでに浜のゴミを拾ってて見つけたのがこれ。」
「形、活かしたんだけど、座りにくい?」
智は潤が座った様子をいろんな角度から確認して、椅子の心配。
俺の心情より、椅子の心配。
椅子作りは智の仕事だけど、それは仕事じゃないじゃん。
むむむむむっ。
「うん、いい感じ。座りがいい。」
潤が少し椅子を引いて股の所に手を置く。
「回るともっとよかったな。」
動かない椅子の上で腰を左右に振る潤。
「そうすると、ぶった切って、金属使うことになるよ?」
「それはヤダ。」
「だろ?」
顔を見合わせて笑う二人。
幼馴染の二人には、俺と智にはない、付き合いの長さがある。
……正直羨ましいけど。
俺と智みたいな濃密な時間じゃないからね!
「まぁまぁまぁまぁ、飲んで飲んで。」
ニノが新しいグラスにビールを注いで持って来る。
「そそ、翔ちゃん飲も!」
二人が俺に気を使ってる。
そういうのが余計俺をへこますんだよ!
俺に気付いた智がカウンターから出て来る。
「後で、抜けだそ。」
耳元で囁いて、ふにゃっと笑う智。
一瞬で俺を急浮上させる智の笑顔と言葉!
「おっしゃ、飲も!潤、誕生日おめでとう!」
グラスを掲げると、雅紀とニノが呆れた顔して眉毛を上げる。
でも、俺と同じ高さにグラスを掲げ、盛り上げる!
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでと。」
最後の智に潤が小さくウィンクしたのは……見ないことにする。
結構飲んで、酔っぱらった雅紀がテーブルに突っ伏す。
ニノと潤は最近公開された映画について熱く語ってる。
「キャスティングはいいんだよ。でも、あのカジノのシーンのライティング!」
「あれが監督の手法なんじゃないの?」
「え?あそこで色味変える必要ある?」
「俺はそれより、脚本よ、気になったのは。あそこはさ、アクションに焦点しぼって……。」
観てない俺にはちんぷんかんぷん。
笑ってうなずくしかできない。
でも、熱く語るってことはそれなりに面白かったってことでしょ?
潤の隣でチビリチビリ飲んでた智が、欠伸を噛み殺した俺に気付いてニコッと笑う。
『行く?』
口だけで聞く智。
『行く!』
目だけで答える俺。
雅紀を起こさないように、そっと立ち上がってテラスへ向かう。
テラスに通じるドアを開けると、涼しい風が頬を撫でる。
もうすぐ終りを迎える夏の空気。
微かに感じる秋の匂い。
もう月は見えない。
店の明りだけの世界に漂うのは波の音。
ザザ……ザザァ。
時折り長く引く波の音。
一定ではないその音が優し気で、どこか懐かしい。
遠くで聞こえる虫の声も、夏の音じゃない。
「今日は月、見えないね。」
「うん……。」
二人並んで柵に腕をかける。
真っ暗なはずの海がぼんやり見えるのは、まだ月が沈んでない証拠?
「俺さ……。」
智がわずかに顔を空に向ける。
後ろからの明りじゃ智の顔は見えない。
でも、瞳に映る微かな光で表情が見えるような気がする。
落ち着いて穏やかな智の瞳。
「昔、好きな人がいたんだ。」
それってバイト先の?