「で、許してやったのか?」
「もう二度と大野さんと二人では飲みに行かないと確約させました。」
「確約?」
「一筆書かせました。」
櫻井君……。
そんなことしなくても、もう二人で飲みに行ったりできないと思うぞ?
「そこまでしても、まだ安心できません。」
櫻井君!
笑って櫻井君の顔を覗き込む。
「そんなに心配?」
「心配って言うか……。」
おいらに見つめられた櫻井君が、恥ずかしそうに顔を背ける。
「釘を刺してるんです。
好きになってしまったら……誰にもその気持ちは止められないから。」
ああ、そうだね。
おいらの気持ちもそうだ。
もうどうにも止められない。
「僕がそうだったから……。」
横を向いたままの櫻井君の頬にキスし、その滑らかな肌を撫でる。
「あっ……。」
ピクッとおいらの手に反応し、喉を反らす可愛い櫻井君。
その首にしゃぶりついて、下へ下へと手を這わせる。
何度肌を重ねても尽きることのない欲望。
ほら、一回戦が終わったばかりだって言うのに、もう充電し始めてる。
おいら、櫻井君に会ってから、どんどん性欲が増してるんじゃないか?
絶倫?
そんなワードが浮かんだおいらの頭を、櫻井君が両手で持ち上げ、じっとおいらを見つめる。
「もう、僕は大野さんから離れられないから……。」
「おいらもだよ。」
櫻井君の顔を両手で包む。
「おいらも……櫻井君から離れられない。」
櫻井君の目が細くなり、嬉しそうな光を湛える。
キラキラ光るその瞳から離れようなんてムリだ。
いつでも見つめていたい。
見つめられていたい。
そう思わせる、魅惑の瞳。
「部屋は……どんな風にしますか?」
「白か黒でいいんじゃないか?」
「ベッドルームは……真っ赤にします?」
「真っ赤?」
「情熱が沸き立つように。」
櫻井君の真っ赤な唇がおいらの唇を塞ぐ。
真っ赤な部屋……そんな部屋にしたら、櫻井君が壊れちゃうんじゃないか?
おいら、今、絶倫に向かって成長中だぞ。
櫻井君のおかげでな。
赤い部屋なんかにしたら、いい歳したおっさんは、見境なく櫻井君に喰らい着いちゃうぞ。
いやいや、やっぱりダメだ。
櫻井君が本当に壊れてしまうかもしれない。
苦痛に歪む櫻井君を想像して……そんな姿にもゾクゾクする自分が見えるような気がした。
「赤はダメだ。青……青にしよう。」
「青……それもいいですね。穏やかな波が聞こえてきそうな青。」
そうだな。波のうねりのように、櫻井君に注ぎ込み続けるよ。
穏やかにゆっくり……。
それなら櫻井君も壊れないね。
あ……波だと……エンドレスじゃないか?
「大野さん……。」
櫻井君の腕が、おいらの背中を撫でる。
部屋の内装は後で考えるとして……まずは目の前の瞳に囚われよう。
おいらは櫻井君のこめかみにキスする。
「おおのさ……。」
甘くおいらを呼ぶ声。
きつく抱きしめる腕。
おいらの頬をなぞる、腕の先の綺麗な指。
身も心も櫻井君に釘づけのおいらは……その長い指を甘噛みし、
いきり立った下腹部を押し付ける。
それに呼応するように、櫻井君が膝を立てる。
その内腿を撫で、見せつけるように舌を甘噛みする爪の間に押し込むと、
櫻井君のにグッと力が入る。
「あぁ……ダメだ。大野さん見てると……何度でもヤリたくなります。」
「そう?」
澄まして答えて、さらに指を口に含む。
内股を撫でていた手をさらに奥、肉の谷間に忍ばせる。
「大野さん……本当にずる、ぃ……。」
語尾が小さくなったのは、おいらの指のせい。
「ずるいのは櫻井君だよ。そんな目をしておいらをその気にさせる。
もうすぐ40のおっさんなんだぞ。
そんなに何度もできるわけないじゃないか。」
「嘘つき。」
櫻井君が目を細めて少し顎を上げる。
その視線の先は、おいらがしゃぶる指から離さずに。
「僕の知ってる40前後のおじさん達は、大野さんとは全然違います。
お腹も出てるし、もっと疲れてるし……、
そんな艶っぽい目をしたりしません。」
艶っぽい目?
おいらが?
「意地悪そうで、優しそうで、楽しそうで……いやらしい、不思議で魅力的な目です。」
櫻井君の指がおいらの口から離れ、櫻井君の上半身が伸び上がる。
おいらに抱き着いて、チュッと唇を当て、クスッと笑う。
「それに……こんなに精力的でもありません。」
おいおい、J社のおじさん達の精力知ってるって言うのか?
「聞き逃せないな……。」
「え?」
「おいら以外の精力を、櫻井君が知ってるなんて。」
「知ってるわけじゃ……。」
しゃべる櫻井君の口を塞ぐ。
わかってるよ。
精力的に見えないってことだろ?
でも、意外とおっさんの精力はあるんだぞ。
気を付けてくれよ。
どこで狙われるかわかったもんじゃない。
もちろん、おっさんだけじゃなく、若い男も女の子もおばさんも。
みんな櫻井君を見たら惚れないわけがない。
坂本部長だって言ってたじゃないか。
可愛くて色っぽいおいらの櫻井君は人気者だ。
その櫻井君の目が、おいらを見つめる時にだけ浮かべる表情。
嬉しそうで苦しそうでいやらしい……。
「あっ……おぉの…さん……。」
フッと喜びを湛えた櫻井君の瞳。
ゾクッとする瞬間。
「……いい目だ。」
櫻井君が恥ずかしそうに頬を染める。
新しい寝室は、赤と青で彩ろう。
情熱的でエンドレスな……おいら達にぴったりじゃないか?
END