コーヒーメーカーをセットして、リビングに行く。
忘れてた!
さっきまで飲んでたビールとツマミ!
「ごめん、散らかってるけど……。」
チャチャッとグラスをまとめると、
佐々木さんが熱心に、ツマミのイカをいろんな角度から見てる。
「これはどこのサキイカですか?」
「どこだろ?スーパーで買ったから……美味しかった?」
「美味しいです!大野さんが食べてたってだけで、100倍美味しく感じます!」
ははは、なんか……佐々木さんと話してると、誰のこと言ってるのかわからなくなる~。
「このチョコレートも……。」
岡林君が、モグモグしながらおいらを見る。
「ああ、それはジュン君がくれたやつだから、たぶん有名なとこのじゃないかな?」
「このラスクは専門店のですよね?」
今度は佐々木さんがラスクを一口齧る。
そうそう!おいらの好きなやつ!
このラスクは類さんが何かあるとくれるんだよね。
これもお中元に送ってくれたやつ。
おいら、甘い物好きだから、ちょっと変わったゼリーみたいなのと一緒に。
ショウ君はあんまり好きじゃないみたいだけど。
「おいら、ラスク好きなの。」
笑いながらグラスをキッチンに持って行くと、ショウ君が立ち上がる。
おいらはそのままキッチンに行ったんだけど、ショウ君の声が聞こえて……。
「そんな顔でサトシを見るな!」
「大野さんを見たら、みんなこんな顔になります!」
「サトシを見ていいのは俺だけだ!」
「独占反対!日本は自由競争の国ですよ!」
「それがどうした?サトシに限って言えば、競争を勝ち抜いたのは俺だ!」
「公正取引委員会に訴えます!」
「ああ、訴えろ!俺はサトシとパートナー契約を結んでいる!
訴えなんか跳ね返してくれるわ!」
……よくわかんないけど……恥ずかしいのはなんでだろ?
「お前ら、勝手に人んちのもの食べて、図々しいにもほどがある!」
「あ、すみません……何していいかわかんなくてつい……。」
まだ岡林君、声小さい……。
「大野サトシが食べてたと思ったら、勝手に手が動くんです!」
勝手にって……。
グラスを置いて戻って来ると、ショウ君が目を向いて佐々木さんと睨み合ってて。
「お前はサトシのことになると人格変わるな?」
「それはお互い様です!」
なんだろ、ヘビとマングース?鷹と鷲?
佐々木さん、すごいな~。
こういうショウ君に一歩も引かないの、佐々木さんくらいじゃないかな?
おいらはショウ君の前を通って、岡林君の隣に座る。
「いつもこんな感じなの?会社でも?」
「はい……大野さんの話になると、櫻井さんも佐々木も鼻息荒くって。」
困ったように二人を見る岡林君。
「大変だね。ごめんね。」
「いえ、大野さんのせいじゃ……。」
岡林君の肩を叩いて同情すると、佐々木さんとショウ君がおいら達をガン見してて……。
「サトシ、こっち来て。」
「大野さん、そんな狭いとこじゃなく、広い方へ。」
二人で隣を指さすから……困る。
「あ、そろそろコーヒーできたかな?二人ともコーヒーでいい?」
「はい!」
佐々木さんが返事して、岡林君がうなずく。
「砂糖とミルク、いる?」
「私はなくて大丈夫です。」
「僕は、できればミルクを……。」
「了解。ショウ君はイレイレだよね?」
「ああ、サトシと同じくらい甘くして。」
いつもはそんなこと言わないくせに……。
いや、言ってるかも?
とにかく!対抗するの、ほんと止めて欲しい!
これじゃ、岡林君、話できないじゃん!
ショウ君をちょっと睨んで、キッチンにコーヒーを淹れに行く。
その間も、聞こえてくるのは、ショウ君と佐々木さんの……おいらの褒め合い?
けなされた方がまだマシって言うか……。
ほんと……恥ずかしくって、リビングに行けなくなるから~。
「だから!サトシの作品にはサトシの俺への愛が詰まってるから!」
「大野さんの作品は大野さんの作品ですから!櫻井さんは関係ありません!」
「ないわけないだろ?俺ら、パートナー!家族!
サトシが受け入れるのは俺だけ!」
「それがどうしたって言うんです?
大野さんの作品は大野さんであって、櫻井さんじゃありません!
作品に櫻井さんは関係ないでしょ?」
「ばか、わかんないのか?作品に溢れる、俺への愛!」
「全くわかりませんね?大野さんはプロです。
クライアントの要望にきちんと応えながら創作の羽を広げてるんです。
その作品を一つ一つを丁寧に解釈しないから、勘違いするんです!」
「はぁ?何言ってんのかな?サトシの根底に流れるのは、
俺への溢れんばかりの愛なんだから、作品から溢れたってしょうがないだろ?」
「溢れてると思ってるのは櫻井さんだけですよ?」
「俺がわかればいいんだよ!ね~、サトシ?」
トレイに乗せたコーヒーを持ったおいらに、ショウ君が猫なで声を出す。
うう、なんか……。
「はっきり言った方がいいですよ、大野さん!
櫻井さんははっきり言わないとわかんないんですから。
大野サトシの芸術をちゃんと大事にして欲しい!」
「ちゃんと大事にしてるだろ!佐々木が……。」
「いい加減にしなさいっ!!」
おいらは、今年一番じゃないかってくらい大きな声を出す。
「いい大人がおかしいよ。
今日はおいらの話じゃないでしょ?」
おいらはまず、岡林君の前にコーヒーを置く。
「これ飲んで、リラックスして?」
にっこり笑うと、岡林君がポッと頬を染め、コクッとうなずく。
トレイから一通り、カップをテーブルに移し終わると、
ショウ君が後ろから抱き着いて、ショウ君の隣、ソファーに座らされる。
「岡林、お前、サトシの色気、感じただろ?」
ショウ君の顔を見て、ハッとした岡林さんがブンブンと首を振る。
「感じなかったとは言わせないぞ。
妻帯者のお前が、サトシ見て頬赤くするなんて……言語道断!」
「ち、違います!そんな……。」
「じゃ、お前はサトシの魅力を感じないとでも言うのか?」
「いや、そういうわけじゃ……。」
岡林君がチラッとおいらを見る。
「ショウ君。」
低めの声でそう言うと、今度はショウ君がハッとする。
「おいらの言いたいこと……わかるよね?」
「……わかる……けども!」
「岡林君の話、聞いてあげるんだよね?」
「だけどね?岡林が……。」
「後輩が、部下が、頼って来てくれてるんだよ?
ちゃんと話聞いてあげなくてどうすんの?」
「そうだけど……。」
「岡林君、二人の話が続いちゃうから、何も言えなくなってるじゃん。」
「……おっしゃる通りです……。」
はぁ……。
ショウ君、ちゃんと話聞いてあげられるのかな?
台風で出かけられないよ~。
お話書いて癒される~♪
みんなも読んで癒されて?(笑)