ガタガタと蓋を揺すると、ほんの少し隙間ができる。
そこへ、ブランが伸ばした爪を引っ掛ける。
「う~、もうちょっと爪が長ければ~!」
「僕、どうすればいい?揺らす?」
「う~ん、それより……。」
ブランが言い掛けたところで、早まったノアがキャリーケースを揺らす。
籐で編まれたキャリーケースは丸みがある。
二人の視界がグワンと揺れる。
「「ぅわぁ~っ!」」
世界が180度回転する。
上に飛びついていたはずが、今は足の下に蓋がある。
「ダメだよノア!これじゃ押し付けられて余計固くなっちゃう。」
「ごめんごめん。」
ノアはまた上に飛びついて、キャリーケースを揺らす。
グワングワンと揺れるキャリーケースは、揺れただけに留まる。
ブランも飛びつき、一緒になって揺らすと、キャリーケースがまた回転する。
それと同時に引っ掛けてあるだけの蓋が開く。
「開いたっ!」
素早く見つけたノアが飛び出る。
「あ、待ってノア!」
ブランも続いて走る。
二人はリビングを一周すると、ダイニングを走り回る。
キッチンは狭くて、正面衝突しそうになるが、パッとかわして、廊下に出る。
一階を隈なく走り回ると、ノアは階段の下で立ち止まる。
「いないね、サトシ。」
「うん、いなかった。」
「後はどこ?」
「2階に寝室があるよ。」
「そこかな?」
「そこだよ。」
ノアがニコッと笑って階段を駆け上がる。
ブランも続いて駆け上がる。
2階の部屋は閉まっていて、そっとドアに耳を近づける。
「音……しないね。」
「うん、こっちも。」
隣の部屋の様子を窺っていたブランも首を捻る。
「後は?」
「どこだろ?」
二人は顔を見合わせ、また階段を駆け下りる。
さっきは気づかなかったが、洗面所のドアが少し開いている。
それに気付いたブランが中へ駆け込む。
「こっち!」
「ブラン、待って!」
洗面所に入ると、バスルームの明りが点いている。
「サトシの匂い!」
「この中……?」
二人は耳を立て、中の音に集中する。
ポタポタ、クチュクチュと水音が響く。
「あ、あんっ……ショ……。」
サトシの苦しそうな声に、二人は顔を見合わせる。
「サトシが苦しんでる!?」
「帝王様に苛められてる!?」
二人は慌ててドアに近づこうとして、足が止まる。
「ぁあっ、好き、ショ……大好き……。」
「ふふふ、サトシ可愛いよ。俺も大好き。苛めたいくらい大好き……。」
ブランとノアが、バスルームの磨りガラスを見上げる。
「大好きだと苛めたくなっちゃうの?」
「苛められても大好きなの?」
またバスルームから声が聞こえる。
「もっ……と、もっと、早く!」
「わかってる。」
シャワーの音が響いて、その後はところどころしか聞こえなくなる。
ノアとブランは顔を見合わせる。
「どうする?」
「どうしよ?」
二人は首を傾げて考え込んだ。