朝の陽ざしは清々しい。
庭では虎次郎が日向ぼっこ。
最近のショウ君、時々溜め息をつく。
きっと……ノアを思い出してるんだ。
「ね……虎次郎?」
虎次郎は丸くなって寝たまんま。
「ショウ君……寂しいのかなぁ?」
聞いているのかいないのか、虎次郎は身動き一つしない。
「そりゃ……寂しいよね……。」
やっぱり風間君のとこ、行ってみようかな?
うん、そうしよう。
今週末ならショウ君、行けるかな?
おいらは投げ出した足をまっすぐ上げる。
「最近、運動不足だし……猫じゃなく犬?」
子犬だったら虎次郎も気にならないんじゃない?
小さいうちから一緒にいたら、子犬だって虎次郎になつくだろうし……。
ショウ君得意?のフリスビーもできる!
「虎次郎……虎次郎は犬と猫、どっちがいいと思う?」
虎次郎は、ふにっと片目を開ける。
開けても細い目が鋭くおいらを見る。
「あ、やっぱり犬はダメ?」
虎次郎の目が閉じる。
「そっか、やっぱり猫だね……。」
虎次郎に降り注ぐ太陽。
ちょっと暑くなってきた?
そうだ!
虎次郎がいるうちに……。
おいらはスケッチブックと鉛筆を取りに行く。
虎次郎を今度の挿絵に使おうと思って。
新しい仕事は今度シリーズ化する小説の挿絵。
中学生向け?のファンタジーらしいから、
ちょっと柔らかめのタッチで描いて欲しいんだって。
出てくる強面の猫が、実は天使で、主人公と恋に落ちるって話らしいんだけど……。
虎次郎は天使って感じじゃない?
でもおいら、虎次郎が人間だったら、ショウ君の次に好きになっちゃうかも。
あの貫禄とか、頼りがいありそうな感じとか、
めっちゃおいら好みだと思うんだよね?
おいらが鉛筆をサラサラ滑らせると、虎次郎がムクッと起き上がる。
「虎次郎?」
首を傾げるおいらに、虎次郎が小さく鳴き声を上げる。
「え~、モデルになってくれないの?」
虎次郎は何も言わず、空を見上げる。
モデルが嫌だったのか、暑くなってきたのか、虎次郎はゆっさゆっさと体を揺らし、
いつもの生垣に向かう。
「いいもん。ずっと虎次郎見てたんだから!」
おいらはそのまま庭に足を投げ出し、スケッチブックに鉛筆を走らせる。
虎次郎は振り向きもせず、生垣に消えていく。
お、思い出して描くから!描けるから!
寝ている虎次郎。
片目を開ける虎次郎。
欠伸をする虎次郎……。
あ……、起きてる虎次郎がわかんないっ!
だって、いっつも寝てるんだもん!
次は絶対、起きてる虎次郎、ガン見してやる!
夕飯のダイニング。
口の端にご飯粒をつけながら、ショウ君が言う。
「生姜焼きってさ、どうしてご飯、何杯でもいけんだろ?」
口いっぱいにご飯を頬張るショウ君を見て、おいらも生姜焼きに箸を入れる。
「ほんと、ご飯が進むよね~。」
「サトシ、もっと食べて。夏バテしちゃうよ?」
「大丈夫。おいら意外と体力あるし。」
「そう言うのが危ないんだよ。今年はほんと暑いんだから!」
モグモグさせながら話すから、ほら、ご飯がショウ君の口からはみ出る。
おいらはそれを指で摘まんでショウ君の口に押し込む。
「んっ。」
「食べるか話すかどっちかにすればいいのに。」
「どっちもしたい。なんなら、ご飯食べながらしゃべって、サトシとエッチもしたい。」
ショウ君がニヤッと笑って、おいらの指を食べる。
おいらは慌てて指を引っ込める。
「できないから!」
「できるかどうか、やってみる?」
ショウ君の顔が悪戯っ子の顔に変わっていく。
本気で、やってもいいよって思ってる顔!
「しなくていいから!」
ショウ君は悪戯っ子の顔のまま、ご飯を口に詰め込んで……。
上目使いがいやらしい。
もう気分はそっちシフト?
おいらは話を変えようと、お新香を口に放り込む。
「そ、そうだ、ショウ君、今週末予定ある?」
「予定?ないけど、おふくろが、たまには顔出せって言ってた。」
「ショウ君のお母さんが?」
「うん、親父がサトシに会いたがってるからって。」
ショウ君のお父さんが……。
最初は反対してたのに、今じゃおいら達の強い味方になってくれてる。
ショウ君が唯一頭の上がらない人。
本人はそう思ってないみたいだけど。
「いいよ?別に行かなくても。親父の我が儘なんて聞いてたら、際限ないんだから。」
んふふ。ショウ君、つい強がっちゃうんだよね。
お父さんのことになると。
だから、ケンカしちゃう。
認めてもらいたい、認めてあげたい、話を聞いて欲しい、話を聞きたい……からね。
「行こ。ショウ君ち。で、行きか帰りに風間君とこ寄ろ。」
「風間って……ペットショップ?」
「うん。なんか、ノア達知っちゃったから……ちょっと寂しくなっちゃって。」
ショウ君、きっと自分からは言わないから。
「サトシが寂しいならいいけど……。俺のこと気にしてるなら、いらないよ?」
「いらない?」
「そういう気遣い。」
「ショウ君……。」
おいらは箸を止め、ショウ君を見つめる。
「俺にはサトシがいるからね。ペットよりずっと可愛いサトシが。」
ニヤッと笑うショウ君。
「ペットなんか飼ったらヤキモチ焼かない?サトシ。」
ニヤニヤするショウ君が、生姜焼きを口に詰め込む。
「ショウ君、相手してくれなくなったって!
……それもいいかも?
ヤキモチ焼くサトシなんて……そそられる!」
「ショウ君っ!」
ヤキモチ焼くのはいっつもショウ君の方じゃん!
そりゃ……おいらだって焼くけどさ……。
ペットは……止めた方がいいのかな?