トビラ ① | TRIP 嵐 妄想小説

TRIP 嵐 妄想小説

嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。



パキッ。

足元の小枝が鳴る。

柔らかい土に足が沈む。

樹々に遮られた太陽を仰ぎ見る。

揺れる木漏れ陽が、俺の視界を奪う。

近づくにつれ、バクバクと大きくなる鼓動。

ヒンヤリした空気を、思いっきり吸い込み息をつく。

ブルッと体が震え、少し、落ち着いてくる。

鬱蒼とした森の奥の奥。

ここに来るのは15年ぶり。

あの頃は毎日来ていた。

毎日、毎日、ここに来る為だけに起きて、

ここに来る為だけに学校に行っていた。

いや……。

正確にはそうじゃない。

あの人と会う為だけ……。

その為だけに生きていた。

ただ会いたかった。

一緒にいたかった。

それだけで全てが満たされていた。

目の前に、あの懐かしい小屋が姿を見せる。

荒れ果て、下草と樹々で、ほぼ隠された扉。

まるで、誰も近づけないよう隠されているようで……。

ゴクッと唾を飲む。

この扉の向こう……。

この懐かしい小屋の中に、あなたはまだ……いる?



 

           

 

 

 

 

 

 

 

 

 


久しぶりにかかって来た親父からの電話は、お見合いの話だった。

「いいよ、俺、まだ結婚なんて。」

「そうはいくか。わしらだって孫の顔は見たい。

 お前は櫻井家の跡取りなんだからな。」

うちは、田舎じゃちょっと名の知れた肉屋をやっている。

爺ちゃんの代では小さな肉屋だったのに、

親父は結構商売上手で、牧場と提携して地元の牛を作ったり、

中国に勉強に行って、養鴨を始めたりして、結構大きな肉屋になった。

地元のホテルに卸すくらいには。

「で、いつ帰ってくるんだ?」

「帰る気はないよ。」

「何だと?じゃ、お前はこの家を継ぐ気はないんだな!?」

「そうは言ってないよ。」

「だったら今週末、一度帰って来い。

 話はそれからだ。」

プツッと電話が切れる。

親父はいつもそう。

ワンマンにありがちな、人の話を聞かない人種。

ハァと息をついて、ソファーの上に横になる。

俺だってわかってる。

親父たちも年老いる。

大きくなった店を、誰かが継がなきゃ従業員が露頭に迷う。

妹はすでに嫁いだ。

争いなく、円満に継げるのは俺だけだ。

わかっていても、田舎に帰ることに躊躇する。

都会の生活は快適だ。

上司は面倒だけど、仕事もまぁまぁ、やりがいもある。

だけど……。

また溜め息をつく。

「俺も……そろそろ身を固めるべきなのかな……。」

天井を見ながらボソリとつぶやく。

いつまでもこのままでいるわけにはいかない。

わかっていて、15年の月日が経った。

帰ることに待ったを掛ける俺と、帰った方がいいとせっつく俺。

ずっとどっちつかずで流れた時間。

ただ過ぎるだけの時間……。

結婚すれば……何かが変わるんだろうか?

壁にかかったカレンダーに目をやる。

今週末、特に予定は入っていない。

寝転がったまま、テーブルの上の缶ビールに手を伸ばす。

生ぬるいビールは……苦みだけが、ざらっと舌に残った。



週末家に帰ると、とんとん拍子に見合いの話が進む。

おふくろが、いそいそと釣書を持って来る。

相手は隣町の薬屋の娘。

美人とまではいかないまでも、笑顔の可愛らしい有名大学出の才女だ。

父親は、薬局なんたら協会の会長らしい。

俺には過ぎた相手。

親父もどこから見つけてくるんだか……。

俺が帰って来たのを逃すまいと、

次の日にはお見合いがセッティングされ、親父が返事までしてしまう。

この見合い自体に不服があるわけじゃない。

見合い相手も好感が持てる。

結婚すれば、家庭的ないい嫁さんになるだろう。

俺も……、結婚すれば変われるんだろうか?

心のどこかでそう期待する俺が、強く断ることをさせなかった。

そのせいで、あれよあれよという間に、式場まで押さえてしまう親父達。

あまりのスピードに、見合い相手にまで心配されるしまつ。

「本当に……いいんですか?私で……。」

盛り上がる親父達の目を盗んで、心配そうに俺を見上げる見合い相手。

「それはこっちの台詞……。いいの?俺で?」

「私は……ずっと憧れてましたから。」

「え?俺に……?」

「はい。隣町の櫻井さんは高校時代、有名人でした。」

彼女が笑う。

「カッコいいって、ウチの高校でも話題になってました。」

「全然知らなかった……。」

「そうですよね?女に興味はないって感じでしたもん。」

彼女の笑い声がコロコロ転がる。

嫌な笑い方じゃない。

高校は男子校。

女っ気はまるでなかったし、興味もなかった。

「でも、卒業してから大分経つよ?」

彼女が、思い出すように天井の隅を見上げる。

「私の……初恋だったんです。淡い思いが、ずっと心のどこかにあったみたい。」

懐かしそうに目を細め、クスッと笑う彼女。

きっと、結婚しても上手くやっていける。

そう思えるくらいには、穏やかで優しい笑顔。

初恋……。

俺にとっても、忘れたくても忘れられない。

いや、忘れたいなんて思っちゃいない……。



断らないのが返事と取られ、結婚が正式に決まると、戸惑いながらも会社に辞表を書いた。

いつまでも逃げてはいられない。

いや……俺自身、きっかけを待っていたのかもしれない。

田舎に帰る、……あの、小屋に行くきっかけ……。