「じゃ、行って来る。」
「ん、いってらっしゃい。」
ショウ君の手がおいらの腰に回る。
されるまま、おいらもショウ君の首に手を回す。
いってらっしゃいのチュー。
外国の人がするみたいな、軽くておしゃれな キ ス ……。
にはならず、ショウ君の 舌 はおいらの 舌 を 舐 めまわす。
「あ…んっ……ショ……。」
吐 息 を吐いて、軽く首を振っても、ショウ君の手は顎を押さえて離してくれない。
深くなる キ ス は、おいらの 腰 をショウ君に押し付けて行く……。
「ショ……ダメ……。」
逃げるおいらの 唇 を、追い立てるショウ君。
マジ、ダメだから!
このままじゃ、おいら……。
「ショウく……いじわる……。」
腰 を押し付けて、ちょっと睨む。
この後、ショウ君が行っちゃったら、おいらどうしたらいいの?
やっと離してくれたショウ君が、おいらを見てニヤッと笑う。
「意地悪はどっち?そんな顔されたら、仕事行けなくなるよ。」
顎にあったショウ君の指がおいらの鼻を叩く。
「じゃ、行か……。」
なきゃいいじゃん、と言いそうになって言葉を飲み込む。
だって、そんなこと言ったら、本当に休みそうなんだもん。
「いか……なに?」
ショウ君の意地悪そうな顔。
「今日はイカのバター焼きって言おうとしたの!」
おいらがトンとショウ君の胸を押すと、ショウ君が笑って、おいらをぎゅってする。
「じゃ、早く帰ってこないとね?バター焼きが冷める前に。」
ショウ君の 唇 が、おいらのおでこにチュっと当たる。
「うん。早く帰って来て。」
おいらもぎゅっとショウ君を抱きしめる。
「わかった。速攻で帰ってくる!
なんなら、午前の会議が終わったらそのまま帰ってくる。」
「え?それはダメ!佐々木さん達に迷惑かかっちゃう!」
「大丈夫。俺が育てたんだよ?あいつらに任せておけば間違いない!」
「そういう問題じゃないから!」
「ははは。わかってるよ。だから、大人しく待ってて。」
「うん。待ってる。」
「浮気しちゃダメだよ。」
「浮気?」
おいらはちょっとドキッとする。
「心配してないけど!」
ショウ君がおいらの唇に唇を当て、ニコッと笑う。
「俺のことだけ考えて待ってて。」
そう言ってショウ君は会社に向かった。
玄関の鍵を掛け、おいらはふぅと息を吐く。
ショウ君のことだけ考えて……。
それはちょっと無理なんだよな……。
おいらは洗濯機を回して、そそくさとリビングの窓を開ける。
全開にすると気持ちいいんだ。
家中の空気が流れてく感じ。
前のマンションと違って、この家は戸建てだから、小さいけど庭がある。
庭にね、簡単に育てられるハーブを植えたんだ。
反対側には夏に向かってミニトマトと茄子も植えてみた。
水をやりながら、その成長を確認するのが楽しい。
毎日、ちょっとずつ伸びてる。
ちゃんと成長してるんだよ?
太陽と土と水とおいらの愛情で!
それがすっごく楽しい。
それとね……。
庭の右手の奥の方がガサゴソする。
ほら、やってきた!
毎朝、決まってやってくる。
生垣の隙間から入って来る、おいらの浮気相手!
「おはよ、虎次郎」
大きな体をのしのし揺らしてこっちにやってくるのはトラ柄の猫。
虎次郎はおいらが勝手に付けた名前。
毎朝水やりをする時間に必ずやってくるんだ。
何日か姿を見せないと心配になっちゃうくらい、おいらの心を占領する浮気相手!(笑)
虎次郎は庭の真ん中、日当りの一番いい場所で体を伸ばす。
「お腹空いてない?」
おいらはキッチンから、水と煮干しを持って来る。
窓の縁に座り、足を降ろしてすぐの所に水を置く。
煮干しは手の平に乗せ、虎次郎に差し出す。
虎次郎は急ぐ風もなく、のっそのっそとやってくる。
水をちょっと舐め、おいらの手から煮干しを齧る。
「うふふ、くすぐったい。」
手の平をザラッとした舌が舐めると、くすぐったくて、ひっこめたくなる。
虎次郎は煮干しを口に咥えると、また、のっそのっそと定位置に戻って行く。
庭の真ん中、日当りのいい場所で、体を横にし、前足を上手く使って煮干しを齧る。
それを窓枠に座って見てるおいら。
ぽかぽか陽気にハーブの香りが乗って……。
穏やかで平和な時間。
おいらはこの時間が大好き。
虎次郎を見ながら、イカ、買って来なきゃなぁなんて考える。
虎次郎の丸い肉球が可愛いなぁ、次の絵のモデルになってもらおうかな、なんて思う。
虎次郎は気まぐれだろうから、いつか来なくなっちゃうかもしれないけど、
できるだけ、この時間が続けばいいなぁ。
まだ当分、ショウ君には内緒で楽しみたい。
ショウ君が知ったら、相手が虎次郎でもヤキモチ焼きそうだもんね?
はぁ、今日もおいらは幸せです。