上目使いで俺を見つめるサトシが、嬉しそうにニコッと笑う。
「サトシ……。」
「……じゃ、どうす…る……。」
携帯から聞こえる声を急いで切って、後ろに隠す。
「……いいの?」
俺の携帯を、心配そうに覗き込もうとするサトシ。
「ああ、大丈夫。大した用じゃないから。」
携帯を両手で握って、作り笑いを浮かべる。
サトシには見せたくない感情。
サトシには見せない俺の本心。
隠し通すって決めたから。
サトシの為に、俺の為に。
怪訝そうなサトシが、ふにゃっと笑う。
「もしかして……わざわざ来てくれた?」
「え……ああ、近くまで来たから……。
久しぶりにサトシに会いたいなぁと思って……。」
サトシの笑顔に花が咲く。
「おいらも、ショウ君に会いたいなぁって思ってた。
ショウ君、勉強とバイトで忙しいのかと思って連絡しづらくって……。」
嘘でも嬉しい。
俺に会いたいと思っててくれたこと。
「大丈夫だよ。いつでも連絡くれて。ダメな時はダメってちゃんと言うから。」
ダメな時なんてあるわけない。
でも、そう言ってやらないと、サトシは気を遣ってメールもよこさない。
「んふふ。うん、そうだよね。今はそんなに忙しくないの?」
「いつでもそれほど忙しくないよ。サトシの考えすぎ。」
「そっか。でも……彼女と会う時間も……。」
遠慮勝ちなサトシの顔。
「そんな心配、サトシがしなくていいから!」
少し語気が荒くなる。
サトシにそんな心配されたくない。
そんな心配するくらいなら……。
「ごめん……。おいらには関係ないもんね……。」
「ち、ちがっ。そうじゃなくって……。」
サトシの顔が沈んでく。
そんな顔をさせたいわけじゃない……。
でも、サトシが女の話なんかするから!
「サトシも……忙しいんじゃないの?
さっきも友達と一緒だったし……。」
「あ、見てたの?うん。やっと話せるようになってきてね……。」
人付き合いが苦手だと思ってるサトシ。
「ずっとみんなに……ショウ君に助けてもらってきたから……。」
俺達は、意識してサトシの周りに人を近づけなかったから。
サトシの笑顔を見たら、誰でもサトシが好きになる。
誰でもサトシが欲しくなる。
俺達だけのサトシでいて欲しい。
誰もサトシに近づいて欲しくない。
今でも……。
わかってる。
それが俺達の、俺の我が儘だってことくらい。
勝手に好きになって、勝手に我が儘言ってるんだって……。
サトシにはサトシの世界がある。
それは俺の世界じゃない。
「だから、安心して?おいら一人でも大丈夫だよ。
心配で……わざわざ見に来てくれたんでしょ?」
心配なんかしてない。
独りぼっちでいてくれたら、そっちの方がよかった。
我が儘でずるい俺。
わかってるよ。
どれだけ俺の性格が悪いか。
どんだけ俺が臆病者か。
「でも……でもね?ショウ君の顔見たら……なんかホッとした。
おいらのホームはみんななんだなって……なんか、泣きそうになっちゃった。」
サトシが目を潤ませて笑う。
ああ……。
サトシも新しい環境で気を張ってたんだね。
いいよ。
それだけで……十分。
サトシのホームが俺だって、そう言ってくれるだけで。
なんか、俺も泣きそうだよ。
今すぐ抱きしめて、連れて帰りたい。
連れて帰って、みんな呼んで、バカな話して笑って……。
たこ焼き食べて、夕陽見て、土手でビール飲むのもいいな。
サトシが隣にいてくれれば、それだけで……。
「ショウ君……?」
黙ったままの俺を、心配そうにサトシが覗き込む。
「もう……帰れるの?」
「うん。今日は帰る。ショウ君が来てくれたから。」
サトシがふにゃっと笑う。
「じゃ、帰ろ。帰ってたこ焼き食べよ。」
「たこ焼き?ほんと、ショウ君好きだね!」
サトシが楽しそうに笑う。
たこ焼きは、サトシを思い出すから。
だから好きなんだよ。
「おいらも好きだけど。」
サトシが笑顔で俺の腕を引く。
サトシの触れた腕から、熱病にかかってく。
サトシの知らない我が儘な俺を、その熱で焼き消してくれればいいのに。
「急ご。」
サトシが俺の腕を引っ張る。
いいよ……。
急ごう。
みんなのいるホームに。
俺と一緒に。