miyabi-night 二十話 - japonesque side story - | TRIP 嵐 妄想小説

TRIP 嵐 妄想小説

嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。

 


「遅いので心配しておりました。」

「すまない。野暮用でな……。」

男は悪ぶるでもなく部屋を見渡す。

「そこはそれ……詮索なんて致しません。」

堺屋がいやらしく笑い、上座を示す。

「ささ、こちらに……。」

男は一瞬、上座を嫌がる素振りを見せるが、堺屋が首を振ると、

仕方なさそうに、先ほどまで堺屋が座っていた場所に腰を下ろす。

すかさず潤がお銚子を手に男の隣に陣取る。

女はどうすればいいのか、不安そうに潤と堺屋を見比べる。

潤は何を思ったか、男の逆側の席を視線で示す。

女は困ったように眉を下げ、そのまま中腰になって男の隣に移動する。

堺屋はそれを見て、満足そうに男の前に進み出る。

「今日はゆっくりしてくださいませ。こやつはなかなかの芸達者でございます。

 後ほど舞など舞わせましょう。」

「いや……私は……。」

男が眉間に皺を寄せる。

「たまにはよいではありませんか。……これ。」

潤は堺屋の合図と共に、男にお猪口を持たせると、お銚子を当てる。

「老中様、潤吉にございます。」

わずかに会釈し、にこりと笑う。

反対側の女も困った様子のまま、軽く頭を下げ、初めて名を名乗る。

「……智…千代……でございます。」

さとちよ……。

やはり辰巳芸子ではなさそうな……。

「二人共、可愛い名だな。」

男は交互に隣を見て、優し気に笑う。

潤は智千代よりもまずは老中だと、男の顔を上目遣いで見定める。

「東山様、今日の二人はなかなかの上玉。

 楽しい時間を過ごせましょうぞ。」

堺屋がにやにや笑うと、それとは反対に東山の顔は曇って行く。

「私に芸子は必要ないと言わなかったか?」

「そうはおっしゃいますが、酒の席に女子(おなご)なしと言うわけにも……。

 ご心配には及びません。辰巳の女は口が堅いと聞いております。

 なかでも特に口の堅い女を用意させました。

 思う存分楽しんでくださいませ。」

堺屋がうなずくと、それを合図に潤はお銚子を上げ、酒を催促する。

東山は潤とお猪口を交互に見、ぐいっと一気に飲み干す。

「あれ、いい飲みっぷり。ではもう一杯……。」

潤が酒を注ぐと、東山は潤と智千代を見比べ、二人にも酒を飲めと言う。

「……お前たちも飲むといい。どれ……。」

潤からお銚子を奪うと、智千代にお猪口を持たせる。

「あ、おいらは……。」

「……飲めないのか?飲めないのなら飲まなくてもいいが……。」

東山が智千代の顔を覗き込む。

近くに寄られるのを嫌がるように、智千代はお猪口を差し出す。

「では、少しにしておくか?」

東山はお猪口に半分ほど酒を注ぐ。

「ありがとう……。」

智千代がにこっと笑う。

この笑顔、どこかで見たことが……。

潤は頭を巡らすが、どこで会ったかわからない。

それよりも、智千代に興味を持った風に、じっと見つめる東山が気にかかる。

東山は体の向きを半分、智千代に向けると、可哀想にと言うように智千代を見つめている。

「お前は元々、こんな仕事をする身分ではないだろう?」

確かに……。

この女に、町娘の匂いはしない。

小奇麗にしているし、田舎者にも見えないが……。

「飲めない酒を飲まなきゃならない、嫌な客でも相手しなきゃならない。

 辛くはないのか?」

東山が優しい声で聞く。

智千代も考えるようにして、穏やかに答える。

「お仕事は……仕事だから。

 どんな仕事でも、必要だからある。

 必要としてくれる人がいるから……。

 必要とされれば、やる気になるし、励みになる。

 おいら、自分の仕事、好きだよ。

 生意気だけど……プライドもある……。」

ぷらいど……?

どこの言葉だ?

西の言葉か?蝦夷の言葉か?はたまた海を渡った先の言葉か?

潤が首を傾げると、東山も一緒になって首を傾げる。

「ぷらい…ど?」

智千代はしまったという顔をしたかと思うと、口を尖らせ、考え込む。

二人は黙って智千代の言葉を待つ。

この、素性のわからぬ智千代に、他の者にはない何かを感じ、

潤も東山もその力の正体を智千代から探ろうと目を凝らす。

「誇り!そう、誇りを持ってやってるの。」

突然、口を開いた智千代から零れた言葉。

誇り……。

自分も誇りを持ってやっている。

役者の仕事……。

踊り……。

全ては舞台の為。

自分の……、舞台は自分の誇り。

潤は智千代の横顔をそっと見つめる。

同じように見つめていた東山が、小さくつぶやく。

「誇りか……。お前は仕事に誇りを持ってるんだな?」

智千代も小さく、でも力強く頷いて、にこりと笑う。

その顔を見て、複雑そうに眉をしかめた東山が酒を煽る。

潤も、お猪口をそっと口に添え、堺屋と東山に視線を移す。

堺屋は薄ら笑いを浮かべたまま、黙って酒を煽っている。

自分の推測が正しいなら、岡場所を無くし、歌舞伎や春画を無くそうとしているのは東山だ。

だが、会ってみれば、東山の様子は堺屋とは違う。

堺屋は明らかに金儲けを企んでいる。

できうるなら、自分で吉原や深川を牛耳れないかと、それくらい考えてもおかしくない男だ。

だが、東山は純粋に江戸町民の為を思っているように見える。

いや、まだわからない。

東山が何を考えているのか、それがわかれば……。

潤は、お猪口の中を空けると、お銚子を持って、にこりと笑った。