旅立つアサギマダラを求め! 高知県室戸岬 2017-11-05 | 昆虫漂流記

昆虫漂流記

西日本を中心に昆虫を追いかけています。✌
東へ西へ、過去に未来に昆虫求めて漂流していますが、
近年は、昆虫だけにとらわれず、自然全体から、
観察する眼を持ちたいと思いますのでよろしくお願いします。

アサギマダラに

南海の大海原へ旅立つ出発に無事を祈り!
 

 

アサギマダラは、タテハチョウ科(旧マダラチョウ科)に含まれる1種で、国内にはよく似た近似種が同属、違属に見られるのですが、

昆虫類で多く見られる生息域を拡げる為の移動(一方方向の移動で寒さと共に滅びてしまう)ではなく、「渡りと云われる旅をする蝶として北日本から、台湾まで南北への旅する蝶で有名ですね。

アサギマダラ雄翅表 鳥取県産 

採集は約20年前

アサギマダラ雄翅裏 鳥取県産 

採集は約20年前

 

アサギマダラ雌翅表 鳥取県産 

採集は約20年前

アサギマダラ雌翅裏 鳥取県産 

採集は約20年前


旅をする他の種類では、

大移動で北米~南米の大陸間を渡るオオカバマダラと同様にアサギマダラも有名な蝶の1種であることは、

皆もご存じの事と思います。

オオカバマダラ翅表 

Satipo Junin  PERU産

オオカバマダラ翅裏 

Satipo Junin  PERU産


戦前の日本の図鑑(原色千種昆虫圖譜)には、

スジクロカバマダラとは、区別されて、オオカバマダラの台湾恒春産が添付されています。(台湾が日本統治下の為)

また保育社原色日本蝶類図鑑1(横山光夫著、江崎悌三校閲、昭和29年6月5日発行)には、このオオカバマダラは1940年8月東京都下で1頭記録され、硫黄島、小笠原、南洋諸島、沖縄、台湾、志那、フィリピン、マレー、印度、オーストラリアなどに広く分布。台湾には少なく土着せぬものかと思われると記載されています。

しかし近年の研究では分布は南北アメリカ大陸、西インド諸島、太平洋の亜熱帯地域に浮かぶ島々などが分布地域とされ、小笠原、南西諸島、台湾では季節風、台風によって運ばれた「迷蝶」とされています。

 

 

旧マダラチョウ科(新分類、タテハチョウ科と記載するのは、この記事を記載する性格上不向きとします)の蝶は、

アサギマダラによく似た模様の蝶がアジア周辺に生息し、日本国内でもそれらを見る事ができます。

タイワンアサギマダラ雄翅表 

沖縄県与那国島産

タイワンアサギマダラ雄翅裏 

沖縄県与那国島産

 

タイワンアサギマダラ雌翅表 

沖縄県与那国島産

タイワンアサギマダラ雌翅裏 

沖縄県与那国島産


日本に生息するアサギマダラ属の中でアサギマダラに非常に近い種となり、

姿や形が非常によく似ているタイワンアサギマダラ(沖縄県与那国島産)ですが、

渡りをする種ではありません。

見分けるには腹部の色が橙色になってます。

アサギマダラ腹部側面 黒灰色

タイワンアサイマダラ 腹部側面  橙色

(生きている際は鮮やかな色)

 

腹部裏面はアサギマダラが雄と雌で色彩に違いがあるのですが、

近似種タイワンアサギマダラは翅の模様はアサギマダラと同じように黒い斑紋(雄斑)があるのですが、

腹部の色は白黒紋で違いが見られません。

アサギマダラ雄の腹部

アサギマダラ雌の腹部

 

 

 

 

タイワンアサギマダラ雄の腹部

 

タイワンアサギマダラ雌の腹部

 

旧マダラチョウ科は、沖縄県、特に先島(石垣島、西表島、周辺離島)には、スジクロカバマダラ、リュウキュウアサギマダラが普通に見られます。

リュウキュウアサギマダラ 

奈良県橿原昆虫館温室にて

リュキュウアサギマダラ雄翅表 

沖縄県石垣島産

リュキュウアサギマダラ雄翅裏 

沖縄県石垣島産

 

リュキュウアサギマダラ雌翅表 

沖縄県石垣島産

リュキュウアサギマダラ雌翅裏 

沖縄県石垣島産

 

スジクロカバマダラ雄翅表 

沖縄県竹富島産

スジクロカバマダラ雄翅表 

沖縄県石垣島

スジクロカバマダラ雄翅裏 

沖縄県石垣島産

 

スジクロカバマダラ雌翅表 

沖縄県石垣島産

 

スジクロカバマダラ雌翅裏 

沖縄県石垣島産


近年はコモンマダラ属やムラサキマダラ属の迷蝶ツマムラサキマダラが普通に見られるように、環境も変わりつあります。

ツマムラサキマダラ 

奈良県橿原昆虫館温室にて

ツマムラサキマダラ雄翅表 沖縄県石垣島産

ツマムラサキマダラ雄翅裏 

沖縄県石垣島産

 

ツマムラサキマダラ雌翅裏 

沖縄県与那国島産

ツマムラサキマダラ雌翅裏 

沖縄県与那国島産

「アサギマダラの名前はどうして??」
アサギマダラの名前の由来は、翅の黒い支脈に囲まれ薄青い色を魅せているアサギ色(浅葱色)の部分が名前の由来になります。
ちなみに浅葱は色表現では「アサギ」ですが、野菜では「アサツキ」と呼ぶのでお間違えなく。

 

「日本ではどこで増えているの??」
国外では、ヒマラヤやアフガンから中国南部、インドシナ半島を経て朝鮮半島と台湾、日本国内が生息地の東と北の端にあたり、

越冬可能な地域を分ける東西の場所が日本の人間社会と同様に西日本と、東日本を分ける滋賀県と岐阜県境の関ヶ原付近と福井県を挟んだラインとなり、

南北のラインは太平洋側に沿って愛知、静岡、神奈川、東京、埼玉、茨城県と栃木県の1部までが越冬可能地と飛来地の境になっているようです。

「渡りと旅の仕組みは??」
この蝶の生存可能期間は、四か月(最長記録は166日)とされ、

この期間が、日本周辺の気候と風に関係して渡りを説明する際にも重要な意味をもっています。

渡りについては、温かい地域で冬を越した蝶は、数回の世代交代を重ねながら北上していきますが、

夏を涼しい高原や北日本で過ごした蝶は、秋の気配と共に南下を始めます。
これは、春の北上の際には何頭もの蝶が生存期間を使いながらも移動距離に限度があり世代交代しながら移動する反面、秋の南下の際には、台風通過の後に見られる吹き返しや冷気の吹込みが北風になるものが多く、

また気圧配置が西高東低になることでやはり、北からの吹込み風が発生する事で、

たった1頭の蝶が数か月の生存期間を使うだけで、南の島まで風に乗る事で旅する事が、

可能な条件が揃っているためと思います。

 

「フジバカマ等に来るのは雄??」
アサギマダラはアザミ、ヒヨドリバナ、トラノオで吸蜜する事がよく知られ、

フジバカマなどはバタフライガーデンにもよく植えられていますが一部の花に吸蜜に来るのが、

ほとんどが雄と言われている事はあまり知られていないようです。
アサギマダラは数種類の花から、アルカイド系の毒素をとり込み、体の中で雌を呼ぶ為の性ホルモンに変換していると考えられてます。
もちろん雌でも花で見られるのですが、そんな成虫の生態も調べられています。
ただこの蝶が、持つ毒については、

幼虫時に、食草のキジョラン、オオカモメズル、イケマなどから取り込んで体内に蓄積させているとされています。

キジョランでアサギマダラの幼虫が見つかります。

高知県室戸岬 2017-11-05撮影

 

他のアサギマダラに近いマダラチョウの仲間を手持ち標本。

トガリアサギマダラ翅表

トガリアサギマダラ翅裏

 

ミナミコモンアサギマダラ

(ミナミコモンマダラ)翅表

 


ミナミコモンアサギマダラ

(ミナミコモンマダラ)翅裏

 

 

マダラチョウ科で国内で見られるその他の種。

オオゴマダラ 先島諸島産

 

オオゴマダラ 先島諸島産


旧マダラチョウ科は毒蝶になるため、他の種類が、これらの蝶に似せて難を逃れる方法を自然に身につけてます。

これが、ベイツ型擬態(模倣擬態)と云われるもので、世界的には多くみられます。

今回は一例としてアサギマダラの場合を紹介します。
ニセメネラウスアサギマダラ(ほぼ日本のアサギマダラに外見そっくり)を真似ての同地域で擬態しています。

カバシタアゲハ翅表  

大きな意味分類上ではアゲハチョウの仲間です。

カバシタアゲハ翅裏  
カバシタアゲハ

(蝶屋は学名からアゲスターと呼びます)


他にベイツ擬態の例でナミダマネシゴマダラ蝶などがみられます。

 

アサギマダラとカバシタアゲハの翅のアサギ色の模様を拡大して見ると

こちらはアサギマダラ

 アサギ色の地色に細かい黒い微毛がみられます。

 

こちらは擬態種カバシタアゲハ 

 模様はすべて鱗粉で構成されています。


さて今回のアサギマダラですが、岬の先端部これらの一帯から、南の大海原に飛び出し旅が始まります。


この先には、西方の足摺岬を除いては、鹿児島、沖縄に向かう方面には翅を休める島はありません。

 


今までの研究では、沖を浮かぶ大型船などで翅を休める姿が観察されたり、

海面に浮かんで翅を休めて飛び上がる姿が観察されています。

 

カバマダラの食草でもあるトウワタで吸蜜するアサギマダラ

 

カバマダラ(迷蝶が累代) 徳島県産

寒さで日本の冬は越せなく、夏の間だけ累代を重ねます。

カバマダラ雄翅表 徳島県産

カバマダラ雄翅裏 徳島県産

 

カバマダラ雌翅表 徳島県産

カバマダラ雌翅裏 徳島県産

 


トウワタはカバマダラの食草ですが、こちらも毒草となり茎を折ると白い液体が流れます。

この白い液体、人間の口に入ったり、目に入ると危険ですので、ご注意下さい。


花にはタップリの蜜があふれ、蜜が個体化している花も幾つか見られます。
蜜が固まった透明な結晶を味見してみると砂糖のように甘い味がしましたが、

アサギマダラはこれらの花蜜からもアルカイド系物質をとり込んでいると云われているので、

人間には安全なのか?、調べた事が無く不明ですので、勧めしません。

 

アサギマダラの食草としては、同じアルカイド系の毒草のトウワタは幼虫の食草としてカバマダラは、生育に適しますが、アサギマダラの幼虫はこれを食べると死んでしまいます。

カバマダラ終齢幼虫 高知県室戸岬にて

 

カバマダラの蛹  飼育個体です。

 

羽化数時間前の蛹は、透けて翅を見る事が出来ます。

アサギマダラの蛹の写真が見つからなく、同じ形態をとるカバマダラで代用しました。

 

ここまで、南下してきた事で翅はすでに破れていますが、こんな小さなボロボロ姿で、過酷な旅に立つ姿には、小さい体で大きな事を行う姿に、愛着すら覚えます。

 

ここから旅立つ蝶達は、無事に温かい南国の別天地に着くことが出来れば良いのですが。

 

これにて、連載の室戸岬篇は終わりです。
ありがとうございました。

 

文中のトガリアサギマダラ、ミナミコモンマダラについては同定に自信ない旨、お断りしておきます。

(トガリアサギマダラについては、検索でググッても、数件しか見当たりません)

また、自分の手持ちの標本や写真、書籍のみで記事を仕上げた為、資料不足が見られますが、ご了承のほどおねがいします。