帰雁の蘆(あし) 新渡戸稲造 

八六 高価の教育

米女ギリシャに遊ぶ

 ギリシャに旅行した折、同じホテルの客はたいがい英米の両国人であった中に、家族を引き連れていた者もだいぶん見受けた。旅館の廊下で涼んでいる間に、十三、四のアメリカの女の児(こ)が、僕のイスのそばにいたが、これに話しかけて「あなた、保養か見物にでも、おいでなさったのか」と尋ねたところが、そのこたえに「いえ、お父様もお母様も私も皆丈夫なの。けれどもネ、お父様のおっしゃるには『地理を稽古するに、学校で本から習うより歩くほうが、よく解る』って。デスから去年もほうぼう旅行して、今年も・・・・・・ハイ、お母様すぐ参りますよ」と飛んで行った。歌人は居ながら名所を知るそうだが、西行法師も、芭蕉も寝てばかりはいなかったようだ。シテ見るとこの少女も小野の小町か、加賀の千代(ちよ)くらいには成るかも知らん。それとも女喜多八で一生終るか、塵積りて山となるとは聞いたが、地理の稽古も高いものだ。