『エリック・サティ 覚え書』 秋山邦晴

その6



【音楽のなかの言葉】

エリック・サティが読書家であったことは、これまでの話で推察できた。その文学的素養がどれほど彼の奇妙な楽曲の題名の命名に影響したかははっきりとはわからないにしても、ナンセンスや諷刺やユーモアの精神が、ダダやシュールレアリズムと親近性をもったのは自然の成り行きだったろう。作家アルフォンス・アレーからの影響については、秋山邦晴氏が先に触れている。ただし、アレーのナンセンスのユーモアや悪戯精神は(サティのそれより)もっと「悪」をもったものである、と秋山氏は言う。


他には、詩人のアポリネールとの接触もあったようだが、音楽観や芸術観の違いから、二人の接近はほんの一時期にとどまったと見える。




また、
─音楽論集『雄鶏とアルルカン』その他で、あれほどサティを礼讃し、時代の美学を指し示す救世主としてサティをもちあげ、若い作曲家たちにその典型としてサティをあがめさせたコクトオ。ところがサティのほうは、いっこうにコクトオを信用していなかった。かれのモダニズムの美学にサティは否定的ですらあったのだ。

と述べ、続けて、

─ぼくのみるところでは、破壊的なユーモアの作家アルフレッド・ジャリと、詩人レオン=ポール=ファルグ、そしてダダの詩人・画家ピカビアが、サティに影響をもたらしたひとだろうと考えている。