『クリムト展に行ってきた』

「オイゲニア・プリマフェージの肖像」


蠱惑的な女性の媚態を描くときに口を半開きにさせることがよくあったクリムトだが、重要な支援者であったオットーとオイゲニアのプリマフェージ夫妻の肖像画を描くにあたっては、さすがにそうしたポージングは選べなかったようだ。代わりにといっては何だけど、この絵では装飾性が前面に出ている。オイゲニア・プリマフェージの顔と手以外の、服装や背景や右上部に描かれた置物などすべてが、極彩色のモザイク模様に収斂されている。
解説によると、黄色、オレンジ、緑、紫、赤、ターコイズと青という、分光色が使われており、こうした組み合わせによる色彩の豊かさは、とくに東洋の作品に多い、とのことで、日本の陶磁器も、本作品の手本になっていると考えられるというが、西洋のタイル模様に通ずるものもありそうだ。
本作品ほどには派手さはないものの、似たスタイルで描かれているのが、下の「赤子(ゆりかご)」という絵で、これも、日本の多色摺木版画(錦絵)が着想源になっている、と解説にある。この作品にはクリムトから影響を受けたエゴン・シーレの諸作品に通ずるものがある。過剰なまでに装飾をほどこし、平面性が強調されていながら、構図はかなり計算されている。赤子を包む寝具とゆりかごの境界は判別出来ないけれども、対象は山塊のような三角形を形作り、その山頂に鎮座する赤子の顔へと、観る者の視線が向かうような構図になっている。