『クリムト展に行ってきた』



「女ともだち┃ (姉妹たち)」
と題されたこの絵では、印象派の影響が色濃かった初期の肖像画の健康的な明るさはすっかり陰をひそめ、かわりに、意味深な表情の女性が官能的に、そしてやや退廃的に描かれている。
前回紹介した少女たちの頬は薄いピンク色に染まり、顔全体も生き生きとした肌色に統一されていたが、この二人の女はどちらも目の回りに青白いくまができていて、どう贔屓目に見ても健康的とは言いがたいし、二人ともに、あらぬ方に視線が移ろい、口はしどけなく半開きになっている。縦長の画面の大半を占める黒は上部の二人の顔を際立たせて、観る者の視線を上部に向ける効果があるが、この縦長の画面が日本美術の受容からくるものであることは明らかである。
下は第6回ウィーン分離派展ポスター


浮世絵の影響は他にも認められる。「女ともだち」の絵の画面左下に描かれた、格子の中にドットが配された紋様は、女性の着ている服の柄のようだが、西洋の伝統的な絵画では、服のたわみやよじれや凹凸は見える通りになるべく忠実に描写されるのが通常のはずなのに(下図の「イザベラ・デステの肖像」《ティツィアーノの模写》の一部を参照)、この絵では日本の浮世絵のように平面的に、画面にアクセントを与える装飾のように衣服の柄が扱われている。



縦長の画面、装飾としてパターン化された平面的な紋様。と来て、すぐに思い出されるのが、フランスの画家ボナールであろう。ボナールもまた、日本の浮世絵から強い刺激を受け、しばしば縦長の画面を用い、あえて平面的な装飾紋様のパターンをアクセントとして使った。退廃的で官能的なクリムトと、家庭的で常識的なボナールと。作風は一見両極にありながら、この二人の画家は意外なところに共通点があることを、僕は今回の展覧会で知ったのである。