新年度に向けて入塾パンフレットを作ることになった。再び清水さんと山下とあたしで会議。順調に内容や構成の話が進み
「そうそう、パンフには写真入れてビジュアル重視で今年は行きましょうよ」
と提案。
「最初のページは、やっぱり塾長の清水さんの写真がほしいなあ」
おもむろに
「俺、塾長じゃないよ」
「えぇぇ!!じゃあ、誰が塾長なんですか??(前回山下からは聞いていたが)」
「塾長は空席です」
く、くうせき!!??
「いや、普通塾には塾長がいるでしょう??てか清水さんしかいないし」
「ほら俺は現場にでてないからさ。やっぱり現場の人から塾長って出ないと現場も張り合いないでしょう」
隣にいる山下に聞く。
「お前、塾長狙ってるの?」
「ぜんぜん」
「塾長が他にいると仕事に張り合いでない?」
「いや、逆にいないと不安。。。」
「だよね」
「金田さん、じゃあ、この部分はどうしますか?」
強引に話題を変えようとする清水さん。
どうやら絶対に塾長にはなりたくないらしい。
高校生を冬期講習に参加させるため、クラス授業を設定することに前回なった。
「金田さん、本当に参加させられますかね?」
少し疑いの目で聞く清水さん。
「6名クラスにしますが、満席にするのは無理かも。。。でも三宅室長とあたしの読みでは最低3名は獲得できると思います。最低開催人数6名中3名じゃダメですか??」
「あっいいですよ。じゃあ、3名は必ず獲得してくださいね」
「わかりました。じゃあ、早急に受講料金決めてください。別に案内書作りたいので」
立ち上がってカウンターに置いてある小・中部門の講習案内書を持って帰ってくる清水さん。
机の上にそれを置いてじっと見つめると、ふいに
「中学生の2割増しで」
えぇぇ!!そんなんで今。。。いま決まっちゃうのか!!
「い、いいですけど。じゃあ、その金額で案内書作っちゃいますけど」
「あっお願いします」
さすが営業兼経理部長。仕事が速いし権限をもってると一瞬思ったが、適当とも言う。
前回の居酒屋事件の会議の際。あたしが提案した空いた時間に何か別の仕事をやろうという趣旨。清水さん、理解してくれたようで、本体が保険の代理店をやってるから同じようにそれをやろうという話が浮上。
「それって、何か資格がないと保険売れないんですか??」
「そうです。生保・損保ともに資格が必要です」
「じゃあ、その資格をとりあえず、あたし取ってみたいんですけど、難しいんですか??」
「うーん。難しくはないですよ」
横にいた山下が
「俺も取ってるから」
「そうなんだ。簡単なの??」
「初級だったらすぐ取れるよ。一夜漬けでも可能」
「じゃあ、それあたし取りますよ」
「そうですか。。。」
ちょっと乗り気でない清水さん。
どうしたんだろう。。。
数日後、教室で勤務中に清水さんから電話。
「はい、金田です」
「あっ金田さん。お忙しいとこすいません。明日の午後って時間空いてます??」
「午後。空いてますよ。何か?」
「良かった。明日3時に○○駅に来てくれませんか?この前言ってた保険のことを詳しく説明したいので」
「わかりました。行きます」
なにやらよくわからないが、説明を詳しくしてくれるとのことで出かけた。
○○駅で清水さんと待ち合わせ。
「あっお疲れ様です~」
会った瞬間、あの ただならぬ笑み が清水さんの満面に。。。なにやら嫌な予感。。。
連れていかれた先は某巨大保険会社。
応接室に清水さんとともに通される。
偉い人たちが登場。簡単に紹介しあって
「では本題に入りましょうか?」
と勝手に偉い人が話をすすめ出した。あたしの前にどさっと置かれた分厚い資料のようなもの。
「あっそれ見ながら話を聞いててください」
「あっはい」
と慌ててページを捲っていくと、どうやら何かの研修制度の説明らしい。はて?3ヶ月研修やらノルマやら独立やらという言葉が端々に見え隠れ。
な、なんじゃこりゃ。。。
で、一通り説明が終わった。が、だいたい向こうが言いたいことは理解できた。
隣にいた清水さんが、あたしに
「どうです??やってみませんか?」
えぇぇ!!
あんた、あたしを保険会社に出向させて研修受けさせようとしてるんかいっ。しかも本体の社員扱いで!!
「給料30万ですよ。30万。それで3年頑張れば独立できますしね。いい条件だと思うんですけどねえ」
つか、あたしはただ保険の初級資格とるだけでいいと思ってるんですけど(汗
とりあえず、解放されて清水さんと二人で外の喫茶店へ。
あの 笑みをたたえながら
「金田さぁ~ん。12月にしたときの契約とは全然違うんですけど、ゆくゆくは金田さんを塾から出して、うちの保険部門の営業統括部長になってもらいたいと思ってるんですけどねえ」
ああん??何言ってるの、この人??(怒
「いや、あたし社員になるつもりないんで。それに保険の資格取って、空いた時間を活用するだけのはずだし」
「そうんなんですけど。研修受けたら保険の売り方も勉強できるし、30万ですよ30万、月」
永遠と聞かされそうだったので
「いや、それはきっぱりお断りします」
と両断。悪気はお互いないんですけどね。やっぱりあの笑みには何かあったわけでした。